社労士コラム
~【最低賃金改定】固定残業代込みの月給に注意!総支給額では見抜けない落とし穴~
- 監修者
- 社会保険労務士法人ヒューマンリソースマネージメント
特定社会保険労務士 馬場 栄
3,500社を超える企業の就業規則改定を行ってきた実績を持つ。また、豊富な経験と最新の裁判傾向を踏まえた労務相談には定評があり、クラウド勤怠のイロハから給与計算実務までを踏まえたDX支援を得意としている。
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目次
はじめに
最低賃金の改定対応というと、パートやアルバイトの時給確認を思い浮かべる企業が多いでしょう。しかし、引き上げ幅が大きいときほど注意したいのが、月給制で働く正社員や嘱託社員です。
月給者が最低賃金を上回っているかは、総支給額だけでは判断できません。最低賃金の計算に含まれない固定残業代や通勤手当などを除いた賃金を、企業が定める年間休日や勤務日をまとめた「会社カレンダー」をもとに算出した1か月平均所定労働時間で割り、時間額を確認します。
さらに、基本給の変更は、固定残業代、人件費、賃金表、採用時の提示賃金などにも影響します。本記事では、令和8年度の動向を確認したうえで、固定残業代を含む月給者の賃金が最低賃金を上回っているかを確認する方法、会社カレンダーが時間換算額に与える影響、企業が改定前から進めたい準備について解説します。
令和8年度の動向と確認ポイント
令和8年7月28日、中央最低賃金審議会は、令和8年度の地域別最低賃金について、Aランク54円、B・Cランク56円の引き上げ目安を示しました。目安どおりに改定された場合、全国加重平均は前年度の1,121円から55円上昇し、1,176円となります。
| ランク | 都道府県 | 引き上げ額の目安 |
|---|---|---|
| A | 埼玉、千葉、東京、神奈川、愛知、大阪 | 54円 |
| B | 北海道、宮城、福島、茨城、栃木、群馬、新潟、富山、石川、福井、山梨、長野、岐阜、静岡、三重、滋賀、京都、兵庫、奈良、和歌山、島根、岡山、広島、山口、徳島、香川、愛媛、福岡 | 56円 |
| C | 青森、岩手、秋田、山形、鳥取、高知、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄 | 56円 |
⇒《参考》厚生労働省:令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について
ただし、55円は全国加重平均の上昇額であり、各都道府県の引き上げ額ではありません。実際の最低賃金額は、各地方最低賃金審議会での審議を経て、都道府県労働局長が決定します。
発効日は全国一律ではなく、令和7年度は10月から翌3月末まで都道府県ごとに分散しました。令和8年度も同じ時期とは限らないため、「10月から一斉に変わる」と考えず、事業場ごとに確定額と発効日を確認し、給与計算への反映時期を管理しましょう。
地域別最低賃金は、正社員、パート、アルバイト、嘱託社員など、雇用形態にかかわらず、原則としてすべての労働者に適用されます。適用される地域は、従業員の住所地ではなく、実際に働く事業場の所在地で判断します。たとえば、北海道に住んで在宅勤務をしていても、所属する事業場が東京本社であれば、東京の最低賃金が適用されます。ここでいう「事業場」とは、原則として従業員が所属するオフィスや支店を指し、自宅は通常これに含まれません。そのため、在宅勤務であっても、所属する事業場の所在地で判断します。
判断に迷いやすいのが、日によって働く場所が変わるケースです。たとえば、東京本社に所属する営業職が、埼玉・千葉・東京の顧客を日々訪問する場合や地方へ長期で出張するような場合でも、所属する事業場が東京本社であれば、勤務先ごとに最低賃金を使い分けるのではなく、東京の最低賃金で判断します。あくまで「その従業員がどの事業場に所属しているか」が基準です。
なお、派遣労働者は例外で、派遣元ではなく、実際に働く派遣先の事業場に適用される最低賃金が基準となります。
このほか、地域別最低賃金と特定最低賃金の両方が適用される場合は、金額が高い方の基準を満たしておく必要があります。
政府は全国平均1,500円という目標を掲げています。最低賃金の上昇を単年度の法改正対応ではなく、今後も続く構造的な変化として捉え、中期的な賃金計画や人件費予算へ織り込む視点が求められます。
「55円の引き上げ」で月給はいくら変わる?
月給者の最低賃金を確認する際は、総支給額ではなく、最低賃金の対象となる賃金を時間額に換算します。その計算には、給与の内訳に加え、会社カレンダーも必要です。
目安どおりに改定された場合の全国加重平均の引き上げ幅55円を、次の勤務条件で月額換算してみましょう。
- ・年間休日:120日
- ・年間所定労働日数:365日-120日=245日
- ・1日の所定労働時間:8時間
1か月平均所定労働時間は、次のとおりです。
8時間×245日÷12か月=約163.3時間
55円の引き上げを月額に換算すると、次の金額になります。
55円×約163.3時間=約8,982円
この勤務条件では、1時間当たり55円の引き上げが、月額約9,000円、年間約108,000円の上昇に相当します。
ただし、55円は全国加重平均の引き上げ幅です。実際に必要な対応額は、各都道府県の確定額や従業員の現在の賃金によって異なります。
月給者の最低賃金チェック!固定残業代と会社カレンダーに注意
次に、固定残業代を含む月給者について、最低賃金の計算から除外する賃金と、会社カレンダーの影響を確認します。
最低賃金の対象となるのは、毎月支払われる基本的な賃金です。固定残業代、通勤手当、家族手当、精皆勤手当、賞与、臨時に支払われる賃金、休日・深夜労働の割増賃金などは、原則として除外されます。なお、各種手当を含めるか除外するかは、名称だけでなく、支給目的や支給条件などの実態を踏まえて判断します。
最低賃金チェックの具体例として、Aさんの給与を確認します。
| 支給項目 | 金額 | 最低賃金の計算 |
|---|---|---|
| 基本給 | 200,000円 | 含める |
| 職務手当 | 10,000円 | 含める |
| 固定残業代 | 30,000円 | 含めない |
| 通勤手当 | 10,000円 | 含めない |
| 総支給額 | 250,000円 | そのまま使わない |
固定残業代と通勤手当は最低賃金の計算から除外するため、判定に使う月給は25万円ではなく21万円です。
年間所定労働日数が245日、1日の所定労働時間が8時間のAさんの場合、1か月平均所定労働時間は約163.3時間です。このとき、最低賃金の判定に使う時間額は次のとおりです。
210,000円÷約163.3時間=約1,286円
一方、総支給額25万円をそのまま時間換算すると、約1,531円です。これは、最低賃金の計算から除外する固定残業代や通勤手当も含めた「見かけの時給」で、判定に使う時間額との差は約245円あります。総支給額だけで判断すると、最低賃金に近い月給者を見落とすおそれがあります。
会社カレンダーを変更した場合も再計算が必要です。たとえば、Aさんの年間休日を3日増やし、年間所定労働日数が242日になった場合、次のように変わります。
- ・年間所定労働日数:245日→242日
- ・1か月平均所定労働時間:約163.3時間→約161.3時間
- ・時間換算額:約1,286円→約1,302円
反対に、年間所定労働日数が増えると、同じ月給でも時間換算額は下がります。給与の内訳だけでなく、雇用形態ごとの会社カレンダーもあわせて確認しましょう。
また、最低賃金への対応で基本給を引き上げると、割増賃金を計算する際の1時間当たりの賃金も上がります。固定残業代の金額と対象となる時間数を再計算し、その時間数を超えた残業については、別途割増賃金を正しく支払う必要があります。
なお、参考までに、賃金項目の取り扱いについてもう一つ注意点があります。よく勘違いされますが、最低賃金と割増賃金では、計算から除外できる賃金の範囲が異なります。
| 賃金項目 | 最低賃金の対象 | 割増賃金の計算の基礎 |
|---|---|---|
| 精皆勤手当 | × | ○ |
| 別居手当 | ○ | ×※ |
| 子女教育手当 | ○ | ×※ |
| 住宅手当 | ○ | ×※ |
最低賃金と割増賃金では取り扱いが異なるため、それぞれ分けて確認しましょう。
改定に備える制度設計・経営視点・システム活用
最低賃金の引き上げは、対象者の給与を変更すれば終わる問題ではありません。最低賃金付近の従業員だけを引き上げると、上位等級や経験者との賃金差が縮まり、賃金制度全体の見直しが必要になる場合があります。
基本給の引き上げは、毎月支給する割増賃金、固定残業代、企業負担分の社会保険料・労働保険料はもちろん、賞与も基本給と連動している場合には波及してきます。対象人数と年間人件費を試算し、人員配置や業務の効率化に加え、必要に応じて商品・サービスの販売価格への転嫁や、取引先との契約単価の見直しも検討することが重要です。
こうしたコスト増は、自社の人件費だけの問題ではありません。最低賃金の引き上げは全国一律に進むため、仕入先や外注先の人件費上昇が、仕入単価や外注費として自社にも流れ込みます。さらに、政府が掲げる全国平均1,500円という目標に向けて引き上げは今後も続く見込みで、今は最低賃金と距離がある中堅層の給与も、いずれ下限に追いつかれます。最低賃金改定を単年度の対応や一部従業員の問題と捉えるのではなく、毎年続く構造的なコスト上昇として、中期的な視点で経営に織り込む必要があります。
採用への影響にも注意が必要です。既存従業員の給与を見直したら、求人票や採用サイトの提示賃金も確認しましょう。最低賃金ぎりぎりに設定すると、次回の改定ですぐに見直しが必要になるため、ある程度余裕を持った賃金設定も検討します。
最低賃金の確定後に情報を集め始めると、発効までの短期間に作業が集中します。「目安が出ている今できること」と「確定後に行うこと」を分けて、早めに準備を進めましょう。
・今できること:目安をもとに試算する
公表された引き上げ目安をもとに、見直しの可能性がある従業員を洗い出し、人件費への影響を確認します。対象者は、「現在の給与のままで対応できる」「確定額によっては変更が必要」「基本給と固定残業代の両方の変更が必要」の3つに整理しておくと、確定後の対応がスムーズです。目安より高い金額が決まる場合も想定し、複数の条件で試算しておくと安心です。
・確定後に行うこと:再計算して各種書類へ反映する
各事業場の確定額と発効日が判明したら、試算を更新します。発効日は都道府県ごとに異なるため、給与への反映時期もあわせて管理します。そのうえで、給与設定に加え、雇用契約書、労働条件通知書、賃金規程、求人情報などにも反映します。
最低賃金のチェックには、勤務地、雇用形態、会社カレンダー、所定労働日数・時間、基本給、各種手当、固定残業代などの情報が必要です。これらが別々に管理されていると、従業員ごとの突き合わせや再計算に手間がかかり、確認漏れも起こりやすくなります。
勤怠管理システムと給与システムを連携し、従業員単位で情報を確認できれば、事業場ごとの最低賃金設定、雇用形態ごとの時間額計算、対象者の抽出、会社カレンダー変更後の再計算、人件費の試算を進めやすくなります。計算条件や対応履歴を残すことで、翌年度や担当者変更時にも同じ手順を利用できます。
勤怠管理・給与システムを活用する際は、手当の名称だけで最低賃金の計算に含めるかどうかを判断せず、支給目的や条件を整理したうえで適切に設定する必要があります。
そのうえで、シフト予定と勤務実績、残業時間、人件費の予実をあわせて確認できれば、人件費が増えている拠点や時間帯を把握し、シフトの組み直しや、残業が集中している業務の見直しに活用できます。最低賃金のチェックに必要な情報を一元管理することは、改定時の確認漏れを防ぐだけでなく、継続的な人件費管理にもつながります。
まとめ
令和8年度の最低賃金改定では、引き上げ額だけでなく、都道府県ごとに異なる発効日や、固定残業代を含む月給者への影響にも注意が必要です。パートやアルバイトに限らず、従業員が所属する事業場ごとに確認しましょう。月給者の最低賃金は、総支給額だけでは判断できません。給与の内訳と会社カレンダーをあわせて確認し、必要に応じて基本給や固定残業代を見直しましょう。
最低賃金の上昇を一時的な給与変更で終わらせず、賃金制度や人件費への影響を含む経営課題として捉えることが重要です。中央最低賃金審議会が示した引き上げ目安で事前に試算し、都道府県ごとの最低賃金額が確定したら再計算して、給与や労働条件へ反映する流れを毎年の業務手順にしておくことが大切です。
勤怠管理・給与システムを活用して、勤務地、会社カレンダー、所定労働時間、給与の内訳などを一元管理すれば、最低賃金違反の見落としを防ぎやすくなります。改定のたびに慌てることなく、法令遵守と継続的な人件費管理を両立できる体制を整えていきましょう。
セコムトラストシステムズからのご紹介
最後に、セコムトラストシステムズから、便利な「セコムあんしん勤怠管理サービス KING OF TIME Edition」の機能をご紹介します。
最低賃金の改定に伴って基本給や固定残業代などを見直した後は、その内容を給与計算へ正確に反映する必要があります。「セコムあんしん勤怠管理サービス KING OF TIME Edition 給与オプション」では、勤怠管理と人事労務のデータを自動連携し、勤怠管理から給与計算までをシームレスに一元管理できます。データを別のシステムへ転記する作業を減らせるため、改定時の設定変更や毎月の給与計算を進めやすくなります。
なお、「セコムあんしん勤怠管理サービス KING OF TIME Edition 人事労務オプション」には「適用日」機能が備わっており、金額変更や適用される日を履歴として管理することが可能です。基本給の改定や異動に伴う変更についても、あわせて履歴管理を行えます。


さらに、給与明細データを人事労務へアップロードすることで、WEB給与明細の発行やメール配信にも対応できます。最低賃金改定後の給与設定から勤怠集計、給与計算、明細発行までの流れをまとめて管理したい企業にとって、日々の業務負担と確認作業を軽減する選択肢となります。



