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社労士コラム
~【「シフトによる」は法違反!?】シフト制の留意点と労務トラブルを防ぐノウハウ~

記事作成日:2025 年 12 月 12 日
【「シフトによる」は法違反!?】シフト制の留意点と労務トラブルを防ぐノウハウ
監修者
社会保険労務士法人ヒューマンリソースマネージメント
特定社会保険労務士 馬場 栄

3,500社を超える企業の就業規則改定を行ってきた実績を持つ。また、豊富な経験と最新の裁判傾向を踏まえた労務相談には定評があり、クラウド勤怠のイロハから給与計算実務までを踏まえたDX支援を得意としている。
https://www.human-rm.or.jp

目次

  1. はじめに:その「シフト調整」、思わぬ労務トラブルの原因になっていませんか?
  2. まずは基本の確認:「シフト制」とは何か?
  3. 判例から学ぶ!シフトカットをめぐる法的リスク
  4. 明日からできる!シフト制の労務トラブルを防止する実践的対策
  5. まとめ:適切な労務管理が、従業員の定着と企業の成長を支える

はじめに:その「シフト調整」、思わぬ労務トラブルの原因になっていませんか?

多くの現場で活用されるシフト制は、繁閑や人員事情に応じた柔軟な運用ができる一方、「会社都合で急にシフトを減らされた」などの紛争の火種にもなります。人件費の最適化や多様な働き方への対応というメリットの一方で、使用者と労働者の認識の齟齬が生じやすいという構造的な課題も抱えています。そこで、本記事では、シフト制に潜む法的なリスクを具体的に解き明かし、すぐに実践できる実務対応を整理します。

まずは基本の確認:「シフト制」とは何か?

厚生労働省は「『シフト制』労働者の雇用管理を適切に行うための留意事項(以下、留意事項)」ではシフト制を「労働契約締結時には労働日・時間を確定せず、一定期間ごとに作成されるシフト表などで具体の労働日・時間が確定する勤務形態」と定義しています。あらかじめ定められた複数の勤務パターンを交代で勤務する「交替勤務」とは区別されるものです。飲食・小売・介護といった、日や時間帯によって業務の繁閑差が大きい業界で広く用いられています。
⇒参考:厚生労働省「『シフト制』労働者の雇用管理を適切に行うための留意事項」

判例から学ぶ!シフトカットをめぐる法的リスク

「留意事項」では、シフト制労働者に関して注意すべき点を様々な観点から挙げています。これらの中でも、最もトラブルに発展しやすい「シフトカット」の問題を深掘りしていきます。

●こんな「シフトカット」は要注意!

どのようなシフトカットが「違法」と判断される可能性が高いのか、現場で起こりがちな具体的なケースを見ていきましょう。

  • 経営都合を理由とするケース
    「売上が目標に達していないから、来週のアルバイトのシフトは全員一律で半分にする」
    「急な予約キャンセルで客足が鈍いので、今日この後のシフトはキャンセル。申し訳ないが帰ってください」
  • 特定の従業員を狙い撃ちにするケース
    「新人の〇〇さんを重点的に育てたいから、その分ベテランの△△さんの今月のシフトは大幅に減らそう」
    「会社の方針に何かと批判的なAさんの勤務日数を、見せしめとして意図的にゼロにする」
  • 懲戒処分のように用いるケース
    「最近ミスが多いCさんへの罰として、来月のシフトは一切入れないことにする」

上記のような、使用者による一方的なシフト削減は、労働者の生活に直接的な打撃を与えるため、後述する「黙示の合意」の違反や「権利の濫用」といった法的な問題、さらには休業手当の支払義務に直結する可能性が極めて高いです。

リスク①:契約書になくても「黙示の合意」が成立しているケース

雇用契約書に「週〇日、〇時間勤務」といった具体的な労働日数の記載がなくても、採用時の説明内容や、その後の長期間にわたる勤務実態から、裁判所が「当事者間には、少なくとも週〇日程度は勤務するという黙示の合意があった」と認定することがあります。

参考判例:「医療法人社団新拓会事件」(東京地裁 令和3年12月21日)

《事案》
当初は空き枠に応じて働くスポット勤務だった医師が、その後事実上レギュラーとして毎週固定のシフトで勤務していたにもかかわらず、使用者が一方的にそのレギュラー枠を廃止し、シフトを大幅に削減しました。
《判断》
裁判所は、継続的な勤務実態から固定シフトで勤務することについての「黙示の合意」が成立していたと認定。使用者が労働者の同意なく一方的にシフトを削減することは、合意に反する違法な労働条件の不利益変更であるとして無効と判断し、本来得られるはずだった賃金との差額支払いを命じました。
《教訓》
契約書がすべてではありません。チャットやメールでのやり取り、そして数カ月から数年にわたる安定した勤務実績といった客観的な事実が、契約内容を証明する強力な証拠になり得ることを肝に銘じるべきです。

リスク②:合意がなくても「権利の濫用」で違法となるケース

仮に、明確な勤務日数の合意が認められない場合であっても、使用者がシフトを決定する権利(裁量権)は無制限ではありません。社会通念上、合理的と考えられる範囲を逸脱した大幅なシフト削減は、使用者の「権利の濫用」として違法・無効と判断されるリスクがあります。

参考判例:「シルバーハート事件」(東京地裁 令和2年11月25日)

《事案》
訪問介護事業所で、これまで月13〜15日程度の安定したシフトで勤務していた労働者に対し、使用者が特段の合理的な理由を説明することなく、ある月からシフトを5日→1日→0日と急減させました。
《判断》
裁判所は、「シフト制労働者にとって、勤務日数の大幅な削減は収入の激減に直結し、その不利益は著しい」と指摘。シフト削減の必要性や経緯について使用者からの具体的な説明がなかったことなどを踏まえ、合理的な理由のない大幅な削減はシフト決定権限の濫用にあたると判断。削減が顕著な月について、直近3か月間の平均賃金との差額を支払うよう命じました。
《教訓》
単なる人員調整や、従業員への懲罰といった意図での安易なシフト削減は、法的に極めて危険です。シフトを大幅に減らさざるを得ない場合は、その経営上の必要性、手続きの妥当性、そして対象となる従業員への丁寧な説明と協議が不可欠となります。

休業手当の支払い義務

「今日は予約が少ないから」「取引先からの資材の納入が遅延して仕事がないから」といった、会社側の経営・管理上の理由(使用者の責に帰すべき事由)で、確定していたシフトを減らして従業員を休ませた場合は、その休業させた日について平均賃金の60%以上の休業手当を支払う義務があります。これは正社員だけでなく、シフト制で働くアルバイトやパートタイマーにも当然に適用されます。

「シフトによる」という記載の落とし穴

多くの企業の雇用契約書や就業規則で「勤務日および勤務時間は、シフト表により別途定める」といった一文を見かけます。「留意事項」では、「シフトによる」という記載だけでは労働条件の明示として不十分であり、原則となる時刻の記載や、最初の一定期間分のシフト表を契約時に同時交付することが必要だと明記しています。
さらに重要なのは、一度確定したシフトを変更することは、すなわち労働条件の変更に当たるため、改めて労使の合意が必要だと示している点です。前述のとおり、過去の安定した勤務実態から「黙示の合意」が認定される可能性も十分にあります。したがって、「シフトによる」という一文は、会社の裁量を無制限に保証する魔法の言葉ではなく、むしろトラブルを誘発しかねない「落とし穴」となり得るのです。

明日からできる!シフト制の労務トラブルを防止する実践的対策

シフト作成・変更ルールの明確化と書面化

トラブル防止の第一歩は、曖昧さをなくし、誰もが納得できる客観的なルールを確立することです。特定の管理者の裁量でシフトが決まるような属人的な運用は不平不満の温床となるため、以下の項目を就業規則や雇用契約書に具体的に記載し、全員に周知徹底します。

  • シフトの決定プロセス: 希望の提出方法と期限、シフトの確定日、および通知日と通知方法を明確に定めます。
  • 確定シフトの有効性: 一度確定し通知されたシフトは、会社と従業員の双方を拘束する労働契約の内容となり、互いに遵守義務を負うことを明記します。
  • シフトの変更プロセス: 会社がやむを得ない理由で変更を求める場合は、少なくとも「〇日前」までに従業員へ打診し、個別の同意を得ることを原則とします。あわせて、従業員都合による変更希望の申し出ルールも定めます。
  • 労働時間・日数の目安: 契約時に「週〇日程度、月〇〇時間以上の勤務」など、収入の目安となる労働日数や時間について労使間で具体的に合意し、書面に残します。
円滑な運用を支える日頃からの丁寧なコミュニケーション

ルールやプロセスを形骸化させないためには、日頃からの丁寧なコミュニケーションが不可欠です。

  • 情報共有と理解促進: 会社の経営状況や人員配置の必要性、急な欠員が発生した際の対応などについて、一方的に通告するのではなく、平時から従業員に丁寧に説明し、理解と協力を得る姿勢が、いざという時の信頼関係につながります。
  • シフトの「見える化」: 各自のスマートフォンなどでいつでもシフトを閲覧でき、変更履歴も確認できるようなシステムを導入することも有効です。情報がオープンになることで、従業員間の誤解を防ぎ、シフト運用に対する納得感を高めます。
  • 意見を吸い上げる仕組み: 定期的な個人面談の場を設けるなど、シフトに関する個々の希望や意見を会社が吸い上げる仕組みを作ることで、一方的な運用を防ぎ、従業員の満足度向上にも貢献します。

これらの対策は、単独で行うのではなく、明確な「ルール」を土台とし、それを公平・透明に運用する「プロセス」を構築し、さらに双方向の「コミュニケーション」で支えるという一連の流れで実践することが、持続可能で良好な労使関係を築く鍵となります。

まとめ:適切な労務管理が、従業員の定着と企業の成長を支える

  • 一度確定したシフトは、法的な拘束力を持つ労働契約です。会社の都合で安易に変更することはできず、原則として従業員の個別同意が必要です。
  • 雇用契約書に明確な日数の記載がなくても、長期間の勤務実態などから「黙示の合意」が認められ、シフト削減が違法と判断されることがあります。
  • 明確な合意がない場合でも、合理的理由なき大幅なシフトカットは、使用者の権利濫用として無効と判断されるリスクが非常に高いです。
  • トラブル予防の核心は、「ルールの明確化と書面化」「公平で透明な運用」「日頃からの誠実なコミュニケーション」、そして「客観的な勤怠管理」に尽きます。

働き方の多様化がますます進む現代において、シフト制で働く従業員のエンゲージメントを高め、安心して働ける環境を整備することは、人材の確保・定着の観点からも企業の持続的な成長に不可欠です。

セコムトラストシステムズからのご紹介

最後に、セコムトラストシステムズから、複雑な勤務条件やスタッフの希望を自動で反映し、公平で納得感のあるシフト表を簡単に作成することが可能な「セコムかんたんシフトスケジュール」についてご紹介します。

「セコムかんたんシフトスケジュール」は、シフト調整の負担を大幅に軽減し、現場のトラブル防止や働きやすい環境づくりをサポートします。

サービスイメージ
サービスイメージ
勤務条件や希望を考慮したシフト自動作成

-複雑な条件やスタッフの希望をもとに、最適なシフト表を自動で作成

スマホからのシフト希望申請・確認

-利用者(従業員)がスマートフォンから簡単に希望を提出・確認でき、申請漏れや伝達ミスを防止

自動割付・アラート機能

-必要人数や勤務条件を自動チェックし、不足や偏りがあればアラートでお知らせ

シフト作成後は、『セコムあんしん勤怠管理サービス KING OF TIME Edition』と連携し、勤務予定のデータの自動連携・管理もスムーズに行えます。

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