社労士コラム
~【賃金控除の完全ガイド】遅刻・勤怠計算から特殊ケースまでQ&Aで徹底解説~
- 監修者
- 社会保険労務士法人ヒューマンリソースマネージメント
特定社会保険労務士 馬場 栄
3,500社を超える企業の就業規則改定を行ってきた実績を持つ。また、豊富な経験と最新の裁判傾向を踏まえた労務相談には定評があり、クラウド勤怠のイロハから給与計算実務までを踏まえたDX支援を得意としている。
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目次
はじめに
「遅刻した従業員の給与計算、本当にこれで合っている?」「備品を壊した従業員の修理費、天引きしていい?」など、人事・労務担当者にとって「賃金控除」は判断に迷う業務です。法律違反や労使トラブルを防ぐには、正しい知識が欠かせません。
この記事では、担当者が自信を持って実務にあたれるよう、賃金控除に関する計算ルールや判断に迷うケースをテーマごとにQ&A形式で解説します。
テーマ1:遅刻・勤怠に関するケース
Q. 遅刻や早退をしたときの控除額はどのように計算すべき?
A. 控除額の具体的な計算方法は法律に定められていません。そのため、トラブルを防止するには、賃金控除について就業規則で合理的かつ明確なルールを定めておくことが極めて重要です。
「控除額(時間単価)」を定めるために、次の計算式が必要となりますが、論点として分子となる「金額」、分母となる「時間数」の2つの点を考慮する必要があります。
計算式(例)
控除額 =(基本給+諸手当) ÷ 月平均所定労働時間数 × 不就労(遅刻早退)時間数
※月平均所定労働時間数 = 年間所定労働日数 × 1日の所定労働時間 ÷ 12
(年間所定労働日数は「365日-年間休日数」などの計算式で求める)
まず、分母の時間数については、年間を通じて控除単価が一定になるよう、「年間における月平均の所定労働時間数」を用いる方法が採用されることが多いです。
次に、分子の金額を定める場合に重要なのが、計算式の「諸手当」に何を含めるかです。これも就業規則で定めますが、ノーワーク・ノーペイの原則に従い、一般的に、労働の対価として支払われる手当は含め、福利厚生や実費弁償的な手当は除外することが合理的と言えるでしょう。
含める手当の例(労働の対価):役職手当、職務手当、資格手当など
除外する手当の例(福利厚生等):通勤手当、住宅手当、家族手当など
Q. 5分の遅刻を30分として計算する社内ルール、法的に問題はある?
A. その運用は違法となる可能性が極めて高いです。「賃金全額払いの原則」に基づき、遅刻時間は1分単位で正確に計算し、その実時間分のみを控除する必要があります。たとえ就業規則で定めていても、5分の遅刻を30分として計算するような「切り上げ」処理は認められません。
なお、「10分未満の遅刻は切り捨てて控除なしにする」といった、従業員に有利な取り扱いは問題ありませんが、その場合も就業規則等にルールを明記し、一貫した運用を行うことが望ましいです。
Q. 交通機関の遅延による遅刻も控除にしてはいけないの?
A. 法律論で言えば、遅延が不可抗力であったとしても、従業員が労務を提供できなかった事実に変わりはないため、会社はその遅刻した時間分の賃金を控除すること自体は可能です。
しかし、従業員に責任のない事由による不利益を課すことは、従業員の士気を下げ、エンゲージメントを損なう可能性があります。そのため、多くの企業では就業規則に「公共交通機関の遅延による遅刻は、遅延証明書の提出をもって遅刻として扱わない」といった趣旨の規定を設け、控除の対象外としています。これは、従業員に配慮した労務管理上の対応と言えるでしょう。
Q. フレックスタイム制でコアタイムに遅刻・早退した場合も控除してよい?
A. この場合、「賃金控除」と「懲戒処分」を分けて考える必要があります。
まず、遅刻・早退の事実のみをもって直ちに賃金控除することはできません。フレックスタイム制は「清算期間」の総労働時間で給与を計算します。そのため、遅刻した分を他の日の労働で補い、総労働時間を満たしたのであれば、「働かなかった時間」は存在しないことになるからです。
一方で、労働が義務付けられているコアタイムに遅刻したという事実は、会社の服務規律に違反する行為です。したがって、就業規則に懲戒に関する定めがあれば、注意指導やけん責などの懲戒処分の対象とすることもできます。そこまで厳しく対応しないとしても、賞与額の計算にコアタイムへの遅刻時間を反映させる取り扱いも可能です。
Q. 遅刻を繰り返す従業員に「罰金」は科せる?
A. 「罰金」という名目での控除はできませんが、度重なる遅刻が悪質な服務規律違反と認められる場合、就業規則に定めがあれば懲戒処分として「減給の制裁」を行うことは可能です。ただし、その際の減給額は労働者の生活を保護するため、労働基準法で上限が定められています。具体的には、以下の2つの条件を同時に満たす必要があります。これを逸脱した減給は違法となります。
①1回の事案に対する減給額が、平均賃金の1日分の半額を超えないこと
②一賃金支払期間(月給制なら1ヵ月)における減給総額が、その期間の賃金総額の10分の1を超えないこと
テーマ2:「給与天引き」の可否判断が重要なケース
Q. 親睦会費や社宅家賃は天引きできる?
A. たとえ長年の慣行であっても、また従業員本人が口頭で同意していたとしても、法律が定める手続きを踏んでいなければ、賃金から法定控除(税金・社会保険料)以外のものを天引きするのは違法になります。親睦会費などを控除するには、事業場の労働者の過半数を代表する労働組合または労働者代表との間で、書面による「労使協定」を締結することが必須です。
Q. 会社から従業員への貸付金を給与から天引きできる?
A. このケースも、前問の親睦会費と同様に、給与から天引きするためには「労使協定」の締結が不可欠です。しかし、賃金は従業員の生活の基盤となる極めて重要なものであるため、貸付金の返済と賃金の支払いは、契約上も明確に分けて考えることが望ましいです。トラブルを未然に防ぐ安全な方法は、別途、金銭消費貸借契約書などを取り交わし、銀行振込といった給与天引きとは異なる形で毎月返済してもらうことです。
Q. 給与を多く払い過ぎてしまった。翌月調整できる?
A. この場合、会社は過払い分を返還するよう従業員に請求できますが、「賃金全額払いの原則」から、会社が一方的に翌月の給与から過払い分を差し引くことは、原則として認められません。
正しい手順は、まず従業員に事情を説明し、過払い分を別途返還してもらうことです。ただし、判例によると、事務的なミスによる過払いで、その金額が比較的少額であり、相殺の時期が過払いのあった賃金支払時期と近く、かつ従業員が相殺に明確に同意している場合など、一定の条件下でのみ「調整的相殺」が適法と認められています。
テーマ3:損害賠償や費用負担に関するケース
Q. 従業員が会社の備品を壊した。修理費を天引きできる?
A. 原則として、一方的な天引きはできません。会社が従業員に対して持つ「損害賠償請求権」と、会社が従業員に対して負う「賃金支払義務」は、法律上まったく別の債権債務です。一方的に相殺することは、「賃金全額払いの原則」に違反します。
また、従業員のミスによる損害であっても、その全額を従業員に負担させられるとは限らず、賠償額が制限されるケースも少なくありません。まずは会社として修理費を算出した上で、従業員と賠償の範囲や支払い方法について話し合い、合意の上で別途支払ってもらうのが正しい手順です。
Q. 研修費用を、すぐ辞めた従業員の給与から天引きできる?
A. 天引きすることはできません。労働基準法では、労働契約の不履行について違約金を定めたり、「研修後3年以内に辞めたら30万円支払う」といった損害賠償額を予定する契約をしたりすることを禁止しています。研修費用を返還させる定めが、この賠償予定の禁止に該当し、無効と判断される可能性は極めて高いです。ましてや、それを一方的に給与から天引きすることは、賃金全額払いの原則にも違反するため、二重に違法となる可能性が高いと言えます。
テーマ4:休業や賞与など特殊なケース
Q. 会社の都合で従業員を休業させた。給与は払わなくていい?
A. 払わないのは違法です。これは従業員が働かなかった「ノーワーク・ノーペイの原則」が適用されるケースではなく、会社側の都合(経営難、原料不足、設備トラブルなど)によって従業員を休ませるケースです。この場合、会社は従業員に対して平均賃金の6割以上の「休業手当」を支払う義務があります。
なお、休業を回避することが可能であるにもかかわらず会社が労働の受領拒否等を行った場合で、民法536条2項の要件を満たすときには、従業員は賃金の全額を請求することも可能になります。この点は、具体的な事実関係の整理も必要になってきますが、「会社都合の休業=一律6割」というわけではないので、留意しておきましょう。
Q. 業績悪化を理由に、賞与から「調整金」という名目で控除してもOK?
A. 一方的に差し引くことはできません。賞与の支給額や計算方法が就業規則や賞与規程で明確に定められている場合、会社はそれに従って支払う義務があります。業績が悪化したからといって、規程上算出される支給額から、会社が一方的に「調整金」などの名目で減額することは、賃金(賞与)の不払いに該当する可能性があります。
賞与の減額を行う場合は、「業績に応じて支給額を変動させる」といった規程上の根拠が必要であり、その場合でも従業員への十分な説明が不可欠です。
まとめ
賃金控除は、法律の原則と就業規則のルールの両方に従って行う必要があります。自社の就業規則が、法律の原則に沿った明確な計算ルールになっているか、この機会にぜひ一度見直してみてください。
整備したルールを正確に運用するためには、手作業での計算ミスや解釈の違いを防ぐ仕組みも重要です。1分単位の勤怠管理や、フレックスタイム制にも対応した控除計算を自動化できる勤怠管理システムや給与計算システムを導入することも、ヒューマンエラーによるリスクを低減する有効な手段と言えるでしょう。
セコムトラストシステムズからのご紹介
最後に、セコムトラストシステムズから、今回の記載内容にも関連する労働時間の正確な把握・管理にご活用いただける「セコムあんしん勤怠管理サービス KING OF TIME Edition」の機能についてご紹介します。
《フレックスタイム制について》
セコムあんしん勤怠管理サービス KING OF TIME Editionは、フレックスタイム制のコアタイムにおける遅刻・早退も正確に記録・集計できます。コアタイムの出退勤時刻を自動で管理し、遅刻や早退時間を明確に把握。就業規則に沿った控除計算が可能なため、法令遵守と業務効率化を両立できる勤怠管理を実現します。


《打刻申請時の書類の添付について》
セコムあんしん勤怠管理サービス KING OF TIME Editionでは、交通機関の遅延による遅刻時に「遅延証明書」を添付して申請できます。管理者は申請内容と証明書を確認し、承認すれば遅刻控除の対象外となり、従業員の不利益を防ぎつつ勤怠データを正確に管理できます。




