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社労士コラム
~フレックスタイム制導入時に防ぐべき5つのズレ~

記事作成日:2026 年 9 月 10 日
フレックスタイム制導入時に防ぐべき5つのズレ
監修者
社会保険労務士法人ヒューマンリソースマネージメント
特定社会保険労務士 馬場 栄

3,500社を超える企業の就業規則改定を行ってきた実績を持つ。また、豊富な経験と最新の裁判傾向を踏まえた労務相談には定評があり、クラウド勤怠のイロハから給与計算実務までを踏まえたDX支援を得意としている。
https://www.human-rm.or.jp

目次

  1. はじめに
  2. 【ズレ1】フレックスの仕組みそのものを誤解している
  3. 【ズレ2】導入目的と時間帯の設定がかみ合っていない
  4. 【ズレ3】業務特性と対象者が一致していない
  5. 【ズレ4】書面上のルールだけで、現場の運用が整っていない
  6. 【ズレ5】フレックスタイム制に合わせた労働時間管理ができていない
  7. まとめ

はじめに

フレックスタイム制を導入したのに、「全員がほぼ同じ時間に出勤している」「会議が1日の中でばらばらに設定され、実際には早く帰れない」といった状態では、制度を導入した意味が薄れてしまいます。

フレックスタイム制は、働く時間を柔軟に調整できるものの、導入するだけで効果を発揮する制度ではありません。業務の特性や現場の運用に合わないまま取り入れると、かえって業務が滞ったり、一部の従業員に負担が偏ったりすることもあります。

そこで、導入時に防ぎたいのが次の5つのズレです。

  • ・制度の仕組みに対する認識
  • ・導入目的と制度設計
  • ・業務特性と対象者
  • ・書面上のルールと運用体制
  • ・労働時間の実態と管理方法

フレックスタイム制を形だけで終わらせないために、ズレが生じやすいポイントと防ぎ方を見ていきましょう。

【ズレ1】フレックスの仕組みそのものを誤解している

フレックスタイム制を、従業員が「好きな時間に出勤できる自由出勤」と捉えるのは誤りです。一方、会社が「始業時刻は固定し、退勤時刻だけ自由にすればよい」と考える場合も、フレックスタイム制とはいえません。

フレックスタイム制は、会社が定めた一定のルールの範囲内で、日々の始業・終業時刻を従業員自身が決める制度です。導入に必要な手続きと主な設定内容を確認しましょう。

1. 手続き概要

フレックスタイム制を導入するには、就業規則などに、始業・終業時刻を従業員の決定に委ねる旨を定めます。あわせて、対象者や清算期間、総労働時間などについて、労使協定を締結する必要があります。

2. 導入時に決める主な項目

フレックスタイム制の導入にあたっては、次の項目について、業務の実態や導入目的を踏まえて定めます。

項目 内容
総労働時間 清算期間内に従業員が労働すべき時間です。法定労働時間の総枠内で定めます。
清算期間 あらかじめ定めた総労働時間について、実際に働いた時間の過不足を清算する期間です。上限は3か月です。
標準となる1日の労働時間 年次有給休暇を1日取得した場合などに、何時間働いたものとして扱うかを定めます。
コアタイム 従業員が勤務しなければならない時間帯です。設定は任意です。
フレキシブルタイム 従業員が始業・終業時刻を選べる時間帯です。設定は任意です。

清算期間は、業務の繁閑や勤怠集計、給与計算のサイクルを踏まえて設定します。基本的には、労働時間の過不足を月単位で把握しやすい1か月から始めます。2か月または3か月にすると、月をまたいで労働時間を調整できますが、時間外労働の判定や給与計算は複雑になります。

総労働時間は、清算期間内の所定労働日数と1日の所定労働時間をもとに設定します。たとえば、清算期間が1か月、所定労働日数が20日、1日の所定労働時間が8時間の場合は、その月の総労働時間は160時間となります。

清算期間と総労働時間は、業務の繁閑と実務上の管理負担の両方を踏まえて設定しましょう。

【ズレ2】導入目的と時間帯の設定がかみ合っていない

フレックスタイム制は、ライフスタイルに合わせて働く時間を調整できる点が、従業員にとって大きな魅力です。育児や介護、通院などと仕事を両立しやすくなるほか、通勤時間をずらしたり、集中しやすい時間帯に働いたりすることもできます。

ただし、導入目的と時間帯の設定が合っていなければ、こうした魅力を十分に生かせません。たとえば、育児との両立を目的としていても、コアタイムを午前9時から午後4時までとすると、保育園への送迎に合わせて始業・終業時刻を調整できる人は限られます。

制度のメリットを生かすには、コアタイムを午前11時から午後3時までとするなど、全員が勤務する時間帯を必要最小限に設定します。フレキシブルタイムは、始業時刻を午前7時から午前11時まで、終業時刻を午後3時から午後8時までというように広く設定すると、始業・終業時刻をずらすだけではなく、日中に一度退勤して再び出勤する「中抜け」もしやすくなります。たとえば、子どもの学校行事や急な通院のために1~2時間だけ抜け、その分を前後の時間で働くといった調整も可能です。こうした使い方ができるかどうかは、コアタイムの長さとフレキシブルタイムの幅に左右されます。

時間帯を設定する際は、業務上必要な場合を除き、深夜割増の対象となる午後10時から午前5時までを避けることも大切です。フレキシブルタイムに深夜の時間帯を含めると、従業員の選択によって深夜割増賃金が発生する可能性があります。

実現したい働き方を明確にしたうえで、時間帯などの具体的な内容が目的に合っているかを確認しましょう。

【ズレ3】業務特性と対象者が一致していない

フレックスタイム制は、全社一律で導入する必要はありません。部署や職種ごとに、制度との相性や導入の必要性を見極め、対象範囲を定めます。

たとえば、育児との両立支援として「始業時刻等の変更」を取り入れる場合には、フレックスタイム制が選択肢になります。また、多様な人材を確保したい技術職や、業務の進め方を自ら調整しやすい職種でも、導入効果が期待できます。一方、決まった時間の窓口対応や顧客対応が必要な業務では、出退勤時刻が異なることで、ほかの従業員に負担が偏ったり、業務そのものが成り立たなくなったりする可能性があるため、フレックスタイム制の適用にはなじみません。

また、「営業職は顧客対応があるから不向き」と思われがちですが、一概にはいえません。訪問や商談の時間に合わせて動く外勤営業は、もともと個人が1日のスケジュールを組み立てる裁量が大きく、制度の柔軟性とかみ合う面があります。

ただし、裁量が大きいからといって、無条件にフレックスタイム制になじむわけではありません。顧客対応などの責任を果たしながら、自ら勤務時間を調整できるかも含めて、対象者を判断する必要があります。

このように向き・不向きを職種名だけで決めるのではなく、顧客対応が必要な時間帯、会議の頻度、業務分担、情報共有の方法などを考慮し、出退勤時刻が異なっても業務を円滑に進められるかを確認しましょう。

導入前チェック
  • 従業員ごとに始業・終業時刻が異なっても、担当業務を滞りなく進められる
  • チーム全員が同じ時間に勤務しなくても、連携や意思決定に支障がない
  • 会議や朝礼を特定の時間帯に集約できる
  • 顧客や取引先への対応を複数人で分担できる
  • 担当者が不在でも情報を確認し、引き継げる
  • 部下の勤務時間にかかわらず、上司が業務の進捗を把握できる
  • 従業員同士の連絡方法が決まっている
  • 出退勤時刻が異なっても、人事・経理などの社内手続きに支障がない

該当項目が少なくても、直ちに導入できないわけではありません。業務上の課題を確認し、運用方法を調整したうえで、一部の部署や職種から導入する方法もあります。
対象となる労働者の範囲は労使協定に明記します。また、異動時の適用・解除基準も、就業規則などにあらかじめ定めておきましょう。

【ズレ4】書面上のルールだけで、現場の運用が整っていない

フレックスタイム制は、就業規則や労使協定を整えるだけでは十分ではありません。書面で定めた制度を現場で生かすため、日々の運用方法まで具体的に決めておきましょう。

運用にあたっては、次のルールを明確にします。

  • ・出退勤予定を連絡・変更する手順
  • ・会議や朝礼を設定する時間帯と実施形式
  • ・コアタイムへの遅刻・早退の扱い
  • ・テレワークと併用する場合の勤怠管理
  • ・上司やチームとの勤務予定の共有
  • ・始業・終業時刻にかかわらず、担当業務の責任の所在を明確にする取り決め

たとえば、始業・終業時刻を選ぶたびに上司の承認が必要だったり、コアタイム外に定例会議が設定されたりすると、従業員が時間を選べる範囲は実質的に狭まります。

ただし、始業・終業時刻を選べることが、担当業務の責任まで自由になることを意味するわけではありません。9時に顧客とのアポイントがあるにもかかわらず、「今日は11時に出勤するので対応を代わってほしい」と自分の都合を優先し、あらかじめ決められた顧客対応を他者に押し付けるようなことは避ける必要があります。裁量の大きい職種ほど、勤務時間の選択と業務上の責任を切り分けて考えることが重要です。

制度が形だけになりやすい典型的なケースとして、次のようなものがあります。

  • ・上司が毎朝同じ時刻に出社していると、部下は自分だけ遅く出社しづらくなり、結局は全員が同じ時刻に出勤する
  • ・「全員がいない時間帯があると困る」という不安からコアタイムを長く設定し、始業・終業時刻を調整できる幅が狭まって、実質的に時差出勤と変わらなくなる

いずれも、制度そのものではなく、運用の設計や職場の慣行に原因があります。

出退勤予定は事前の連絡や共有カレンダーで確認できるようにし、会議はコアタイム内または不在予定を避けて設定するなど、従業員が始業・終業時刻を無理なく選べる運用方法を決めましょう。こうしたルールを従業員と管理職に周知し、出退勤予定の連絡方法や会議設定、担当業務の責任に関する認識をそろえることも重要です。また、始業・終業時刻の選択と業務上の責任は別であることを研修などを通じて明確にし、勤務時間帯ではなく、成果や顧客対応の遂行状況を確認・評価する仕組みを整えましょう。

【ズレ5】フレックスタイム制に合わせた労働時間管理ができていない

フレックスタイム制では、従業員ごとに日々の始業・終業時刻や労働時間が異なります。勤務時間が固定されていることを前提とした管理のままでは、長時間労働を見落としかねません。

時間外労働は、原則として清算期間における実労働時間が、法定労働時間の総枠を超えた時間について判定します。ただし、清算期間が1か月を超える場合は、「清算期間を通じて法定労働時間の総枠を超えた時間」に加え、「1か月ごとに週平均50時間を超えた時間」も時間外労働になり、それぞれを確認する必要があります。初めて導入する場合は、まず清算期間を1か月から始めることも考えられます。

また、フレックスタイム制でも、割増賃金の計算や36協定の上限管理のため、労働時間を区分して把握する必要があります。代表的なものは、次のとおりです。

  • ・法定休日に働いた時間
  • ・午後10時から午前5時までの深夜労働
  • ・36協定上の時間外労働

清算期間の終了後にまとめて集計するだけでなく、期間の途中から労働時間の状況を把握することも重要です。終了直前になって働きすぎや労働時間の不足が判明すると、残りの日数では十分な対応ができない場合があります。従業員本人と管理者の双方が、次のような情報を随時確認できる状態にしておきましょう。

  • ・確認時点までの実労働時間
  • ・今後の勤務予定を含めた清算期間終了時の労働時間の見込み
  • ・時間外・深夜・法定休日労働の発生状況
  • ・労働時間が多くなっている従業員

勤怠管理システムを活用すれば、実労働時間や時間外・深夜・法定休日労働の発生状況が自動集計され、清算期間の途中でも確認しやすくなります。また、アラートや通知機能を備えたシステムであれば、労働時間が増えている従業員に早めに気づき、必要に応じて業務量や勤務予定を調整できます。

導入後も、利用状況や長時間労働の発生状況を定期的に点検することが大切です。業務内容や人員構成の変化に応じて、対象者の範囲やコアタイム、申請方法などを見直し、実態に合った運用に整えていきましょう。

まとめ

フレックスタイム制では、制度を導入しただけでは、その効果を判断することはできません。従業員が働く時間を調整しやすくなったか、仕事と私生活を両立しやすくなったか、業務を滞りなく進められているかまで確認する必要があります。

導入前には、自社の業務との相性を確認し、就業規則や労使協定の内容を現場の運用へ落とし込みましょう。導入後は、制度に合った方法で労働時間を管理し、総労働時間の過不足や長時間労働の兆候を早めに捉えることが重要です。

フレックスタイム制の成否は、制度を導入したかどうかではなく、導入目的と制度の内容、対象範囲、現場運用、労働時間管理のズレをどこまでなくせたかで決まります。定期的な点検と見直しを重ね、従業員と会社の双方にとって実効性のある仕組みにしていきましょう。

セコムトラストシステムズからのご紹介

最後に、フレックスタイム制の運用にも活用できる「セコムあんしん勤怠管理サービス KING OF TIME Edition」の機能をご紹介します。

「セコムあんしん勤怠管理サービス KING OF TIME Edition」では、1か月単位のフレックスタイム制に対応し、月ごとの法定労働時間の総枠に基づく集計や、所定外労働・時間外労働の自動計算が可能です。また、コアタイムの設定や有給休暇取得時のみなし勤務時間の管理にも対応しており、制度設計に合わせた運用を支援します。勤怠データをリアルタイムで確認できるため、長時間労働の兆候把握や適切な労務管理にも役立ちます。