社労士コラム
~前年コピーで大丈夫? 勤怠データで描く36協定の「設計図」~
- 監修者
- 社会保険労務士法人ヒューマンリソースマネージメント
特定社会保険労務士 馬場 栄
3,500社を超える企業の就業規則改定を行ってきた実績を持つ。また、豊富な経験と最新の裁判傾向を踏まえた労務相談には定評があり、クラウド勤怠のイロハから給与計算実務までを踏まえたDX支援を得意としている。
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目次
はじめに
36協定(時間外労働・休日労働に関する協定)は、単に届出を行うための書類ではなく、自社の労働時間管理のあり方を整理する「労働時間の設計図」として捉えることもできます。そのため、過去の勤怠実績や今後の人員体制・業務量を確認しないまま作成すると、実態とズレた協定になるおそれがあります。本記事では、勤怠データを活用し、実態に即した36協定を作成するポイントと適正な運用に向けた留意点を解説します。
過去の実績と今後の見込みから36協定を設計する
時間外労働や休日労働を行わせるには、あらかじめ36協定を締結し、労働基準監督署へ届け出る必要があります。その際、協定に記載する時間外労働・休日労働の上限時間や対象者、特別条項は、自社に適用される基準を確認したうえで、過去の勤怠実績だけでなく、今後の人員体制や業務量の見込みも踏まえて設定する必要があります。
たとえば、上限時間を過大に設定すると、現場に「ここまでは残業してよい」という誤ったメッセージを与え、長時間労働の常態化を招くおそれがあります。他方、少なすぎる上限時間で協定を結ぶと、実際の業務量と合わず、36協定で定めた上限時間を超えるリスクが高まります。
そのため、36協定の作成・更新時には、次のような点を確認します。
- ・どの部署で時間外労働が発生しやすいか
- ・どの雇用形態や職種の従業員に残業・休日労働が見込まれるか
- ・繁忙期がどのぐらいあり、どの程度の時間外労働が見込まれるか
- ・特別条項を設ける場合、対象業務と想定される臨時的な事情は何か
- ・今後の受注量、納期、プロジェクト計画、人員増減の予定により、前年と異なる働き方が見込まれるか
これらを整理しておくことで、協定内容と実態のズレを防ぎ、届出後に注意して確認すべき部署や時期も把握しやすくなります。
労働時間から経営課題を読み解く
36協定の検討にあたって整理した勤怠データや業務量の見込みは、協定内容を決めるためだけの材料ではありません。時間外労働の発生状況を読み解くことで、人員配置や業務量、納期設定など、経営上の課題を把握する手がかりにもなります。
「どの部署で」「どの時期に」「どの程度の残業が発生しているか」を見ることで、人員体制に無理がないか、特定の部署や担当者に負荷が偏っていないか、受注量や納期設定が現場の処理能力と合っているかを確認できます。
このようにデータを見ていくと、毎年特定の部署で残業時間が長くなる傾向が見えてくることがあります。その場合は、業務量や人員配置、業務プロセスに構造的な要因がないかを洗い出すことが大切です。そうすることによって「協定上問題がないか」だけでなく、「この働き方を前提に事業運営を続けてよいのか」という課題もあわせて検討できることになります。
経営層や現場管理職に共有する際は、残業時間の実績だけでなく、上限接近が発生している部署、月45時間超えの発生回数、休日労働の発生理由、特定の従業員への負荷集中、今後の業務量見込みとのギャップを整理して提示すると、改善に向けた議論につなげやすくなります。
このように、36協定の作成・更新は、自社の働き方と事業運営のバランスを点検する機会としても活用できます。
時間数・対象者・特別条項は「勤怠データ」で見極める
36協定では、実際の残業や休日労働の状況を踏まえ、「時間数」「対象者」「特別条項」をそれぞれ整理する必要があります。その際は、日々の勤怠データを活用し、次のような観点で確認するとよいでしょう。
| 項目 | 勤怠データで確認するポイント | 36協定での検討事項 |
|---|---|---|
| 時間数 | 月別・年別の残業時間、繁忙期の最大残業時間、月45時間超えの有無、法定休日労働の発生頻度 | 時間外労働・休日労働の上限や回数 |
| 対象者 | 部署別・雇用区分別・勤務形態別の残業・休日労働の発生状況 | 対象となる労働者の範囲 |
| 特別条項 | 月45時間超えの回数、発生時期、理由、部署の偏り、休日労働との重なり | 特別条項の要否、対象業務、適用条件 |
36協定の内容を検討する際は、残業時間の長さだけで判断せず、発生回数、対象者、部署や時期の偏り、その背景まで確認することが重要です。特に次の点に注意しましょう。
・時間数は、平均値ではなく「分布」で見る
会社全体の平均残業時間だけでは、特定の部署や担当者への負荷集中を見落とす可能性があります。月ごとの推移、繁忙期の最大値、月45時間を超えた回数や対象者を確認し、協定上の時間数が実態とかけ離れていないかを見ます。
・対象者は「雇用形態の名称」だけで決めない
36協定の対象者は、正社員に限られません。契約社員・パート・アルバイトでも、時間外労働や休日労働が発生する場合は対象になります。部署別・雇用区分別・勤務形態別の勤怠データを確認し、対象範囲を整理しましょう。
・特別条項は「恒常的な残業」と区別する
特別条項は、「臨時的な特別の事情」がある場合に限られます。過去に月45時間を超えた従業員がいるか、その発生時期や部署に偏りがないか、原因が一時的なものか恒常的なものかを確認しましょう。毎年同じ部署や時期に発生している場合は、特別条項で対応する前に、業務量や人員配置、業務プロセスに構造的な課題がないかを確認する必要があります。
協定作成時に利用した勤怠データは、届出後の運用状況を確認する際や、次回更新時に協定内容と実態にズレがないかを見直す材料としても活用できます。
届出後は上限超過を防ぐ運用体制を整える
36協定は、締結・届出をして終わりではありません。届出後は、実際の労働時間が協定で定めた範囲内に収まっているかを継続的に確認し、上限超過を防ぐための運用体制を整えることが重要です。
そのためには、管理すべき基準をあらかじめ整理しておく必要があります。労働時間の管理では、月ごとの残業時間だけでなく、年単位の累計や複数月平均、特別条項の適用回数など、複数の基準をあわせて見ていきます。なお、時間数の上限に関しては「時間外労働のみ」(①~③)で見る基準と、「時間外労働+休日労働」(④⑤)で見る基準があるため、区別して管理しましょう。
| 確認項目 | 上限の基準 |
|---|---|
| ①月の時間外労働 | 原則45時間以内※ |
| ②年の時間外労働 | 原則360時間以内※ |
| ③特別条項付きの場合の年の時間外労働 | 720時間以内 |
| ④時間外労働と休日労働の合計(月単位) | 月100時間未満 |
| ⑤時間外労働と休日労働の合計(複数月平均) | 2〜6か月平均のいずれも80時間以内 |
| ⑥特別条項の適用回数 | 年6回以内 |
特別条項を設けている場合は、適用回数だけでなく、対象者、理由、発生時期、健康確保措置の実施状況も記録します。これらを把握しておくことで、協定どおりに運用できているかを確認しやすくなります。
特に重要なのは、月末ではなく月中から状況を確認することです。月末の勤怠締め後に上限接近や超過に気づいても、業務分担の調整や残業抑制が間に合わないことがあります。月中から残業時間を把握し、上限に近づいている従業員がいれば、早めに管理職へ共有しましょう。
勤怠管理システムのアラート機能を活用すれば、残業時間が一定時間に達した段階で、人事担当者や管理職に通知できます。こうしたアラートを適切に機能させるには、打刻漏れや残業申請の未承認を放置しないことも重要です。正確な労働時間を把握できるよう、管理職が月中から勤怠状況を確認する体制を整えておきましょう。
なお、アラートを出す基準は一律に設定するのではなく、部署ごとの繁忙期や業務特性も踏まえて見直すことが大切です。実態に合わない基準のままでは、通知が形骸化したり、対応が遅れたりするおそれがあります。運用状況を定期的に確認し、必要に応じて基準や共有フローを調整しましょう。
また、協定上の時間数と実際の残業時間に大きな乖離がないか、特別条項の適用が特定の部署や時期に偏っていないかにも目を向けることが大事です。その内容を踏まえ、改善が必要な点があれば、業務分担や人員配置の見直しにつなげていきましょう。
上限超過を防ぐには、人事部門と管理職が連携し、労働時間の状況を継続的に共有できる体制を整えることが欠かせません。現場の状況を早い段階で共有し、必要な対応を取れるようにしておくことで、36協定を守るだけでなく、業務や人員配置の見直しにもつながります。そのためには、人事部門から管理職に対して、「協定違反を避けるため」だけではなく、「現場の負荷を減らすため」という働きかけをすることで、管理職にとっても残業管理がやらされ仕事ではなくなります。こうした運用結果を次回の協定内容に反映させることで、実態に合った労働時間管理を続けやすくなります。
まとめ
36協定は、時間外労働や休日労働を行うための届出書類であると同時に、自社の労働時間管理のあり方を見直す機会にもなります。時間外労働・休日労働の上限時間、対象者、特別条項は前年基準で決めるのではなく、過去の勤怠実績や今後の業務量の見込みを踏まえて、実態に合った内容にすることが大切です。
また、届出後も、協定で定めた上限や条件に沿って運用できているかを継続的に確認する必要があります。月末を待たず、月中から残業時間や特別条項の適用状況を把握することで、上限超過の防止につながります。
36協定を「作成して終わり」にせず、勤怠データをもとに設計・運用・見直しを行うことで、協定違反の防止だけでなく、長時間労働に依存しない働き方の改善にもつなげていきましょう。
セコムトラストシステムズからのご紹介
最後に、セコムトラストシステムズから、時間外労働や休日労働を管理するうえで便利な「セコムあんしん勤怠管理サービス KING OF TIME Edition」の機能をご紹介します。
36協定の遵守には、従業員ごとの時間外労働や休暇取得状況を継続的に把握することが重要です。2025年2月の記事に記載の《36協定(一般条項、特別条項)締結時間の管理方法について》でも一例をあげておりますが、それ以外にも、便利な機能をご用意しております。
~参考記事~
社労士コラム ~多忙な時期にサッと把握!命取りとならないための36協定締結を教えます~ | セコムあんしん勤怠管理サービス KING OF TIME Edition
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