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社労士コラム
~社労士視点で考える東日本大震災・能登半島地震から学ぶ、企業が取るべき善後策とは~

記事作成日:2024 年 8 月 1 日
監修者
社会保険労務士法人ヒューマンリソースマネージメント
特定社会保険労務士 馬場 栄

3,500社を超える企業の就業規則改定を行ってきた実績を持つ。 また、豊富な経験と最新の裁判傾向を踏まえた労務相談には定評があり、クラウド勤怠のイロハから給与計算実務までを踏まえたDX支援を得意としている。
https://www.human-rm.or.jp

目次

①【労災のおさらい】業務中に怪我をしたらすべて業務災害になる?

近年、震災が頻発しており、発生の度に大規模な被害が生じています。様々な場面で被災する恐れがありますが、もし業務中に被災した場合、労災として扱われるのでしょうか。
まずは労災の基本的な考え方から整理していきたいと思います。

労働者災害補償保険制度とは、業務上または通勤中に負傷・疾病・死亡した場合に被災労働者や遺族を保護するために必要な保険給付を行う制度のことです。

例えば、

  • ・業務中に業務資料の入った段ボールを足に落として負傷した場合(業務災害)
  • ・通勤経路上で交通事故に遭って負傷した場合(通勤災害)

には労災保険により、治療費や入院費などが補填されることとなります。

このうち業務災害については、業務と負傷疾病等の間に因果関係があることが必要となります。この因果関係の有無は、「業務遂行性」と「業務起因性」があるかどうかで判断されます。

「業務遂行性」とは、労働者が労働契約にもとづいて使用者の指揮命令下にある状態、つまり実際に業務についている状態であるかを指します。
一方で、「業務起因性」とは、業務上の事由が原因となって災害が発生したことであり業務と負傷疾病等に因果関係があることを指します。
業務遂行性と業務起因性が認められる場合、つまり業務中に業務が原因で負傷をした場合には、特段の事情がなければ基本的に業務災害として認定されるケースが多いです。

では、業務災害として認められない場合はどのようなケースでしょうか。
代表的なケースとしては、下記のものがあります。

  • ・使用者の指揮命令下にはあったが、業務とは関係のない私的行為によって負傷をした場合(業務中に個人的要因で買い物をしに行って負傷した場合など)
  • ・業務中に労働者が故意に災害を発生させた場合(わざと自分自身をけがさせた場合など)

この2つの事例はどちらも使用者の指揮命令下にあるため業務遂行性は認められるものの、業務に起因していない行動(私的行為や故意の行動)が原因となって発生しているため、業務起因性が認められません。

労災保険は、このような形で業務中に発生した事故に対して補償する制度ですが、事故の態様や事故防止対策の程度によっては最悪の場合、労働基準監督署により送検されるケースもあります。そのため日頃より事故防止となる対策を講じておくことが何より大切となります。

取り組みとして下記のような内容があります。

  • ・労災事例の共有で再発防止
  • ・ヒヤリハットを洗い出し、事前に事故防止対策を打つ
  • ・業務マニュアル、作業マニュアルの制定および定期的な改訂
  • ・業務マニュアルや作業マニュアルに沿った業務遂行を指導徹底 等

業種や業態によって特有の作業内容や作業環境などがありますので、専門家の意見なども聞きつつ、対策を講じるとよいでしょう。

②震災時の労災はどのように判断されるのか

日中の業務時間中に震災が発生し、オフィス内の棚が倒れたことにより負傷した場合を例にします。
この場合、業務中に地震が発生したため、指揮命令下にあり業務遂行性は認められます。一方で、地震自体は業務とは関係のない自然現象であり、地震による負傷の場合には「業務起因性は認められない」という考え方が原則となります。

しかし、地震発生時に従事していた作業環境など施設の状況から考えて危険な状況下で負傷した場合には、地震が原因で危険な状況が悪化したと考えられるため、業務起因性が認められる余地があることになります。例えば、地震により施設が危険な状況となり、退避をしようとした際に負傷した場合などが挙げられます。

自然現象に対する業務起因性を否定する考え方自体は、昭和時代より続く基本的な考え方であり、現代まで踏襲されています。しかし、近年はこの考え方を緩く判断する傾向に推移しており、業務中に発生した地震により被災した場合、労災として広く認められるようになっています。

とはいえ、ほとんどが労災として認定されるわけではなく、私的逸脱行為や業務から一時的に離れていたケースでは労災として認定されないこともありますので、ご注意ください。

この点については、厚生労働省のQ&Aにも記載されていますので、参考までにご覧ください。
東北地方太平洋沖地震と労災保険Q&A

一方で、震災は自然災害のため防ぎようがなく、企業としての責任もあまり問われないとお考えの方もいらっしゃるのではないでしょうか。

一般的に企業には、従業員等への安全配慮義務が課せられています。
安全配慮義務は、労働契約法第5条に企業の責務の一つとして定められており、企業が従業員などの安全と健康を危険から保護するよう配慮すべき義務のことです。万が一、安全配慮義務違反が裁判で成立すると多額の損害賠償の支払いが課せられることになります。

この安全配慮義務は、震災などの非常時においても課せられるため、地震が原因で起きた事故だからいたし方ないでは済まされません。
労災の認定は、業務中の危険が現実化して負傷した場合に補償されるため、使用者の主観面や過失等は考慮されません。
しかし、安全配慮義務違反が認められるかどうかは、地震の規模や避難計画、災害時の対応等が総合的に判断されますので、使用者がどれだけ策を尽くしたかがポイントとなります。
想定が困難な大規模な地震により被害を回避できない場合や、想定される地震でもその時代における社会通念上求められる相当の手段を講じている場合には、安全配慮義務違反は認められにくくなります。

従って、地震が起きることや地震に付随して想定されるリスクに対して事前に対策を講じ、企業として安全配慮義務をきちんと果たせるよう努めることが重要となります。

では実際にどのくらいの企業が平時より震災対策を講じているのでしょうか。

③震災対策をしているのはどのくらいの企業か

震災に向けて事前対策をしている企業では、従業員の健康と安全を確保しつつ、被災からの復興を迅速に行うために、事業を継続させるための計画(Business Continuity Plan:略称BCP、別名:事業継続計画)を策定しています。

BCPは、従業員の安否確認手段の整備や緊急時の体制の整備、リスク洗い出しによる評価など、事業が継続するために必要なことを策定していきます。

このBCPに対しての企業の取組実態を調査した「令和元年度企業の事業継続及び防災の取り組みに関する実態調査(内閣府) 」によると

BCP策定済みないしは策定中
  • 【大企業】…83.4%
  • 【中堅企業】…52.9%

と企業規模により、BCPへの取り組みには差が見られます。特に日本企業の多くを占める中堅企業では、約半数は策定に向けて動けていない現状があります。

BCP策定の問題点として、大企業では規模や人数も多いことから「部署間の連携が難しい」を課題として挙げる一方、中堅企業では「BCPに対する現場の意識が低い」と従業員の危機意識を課題として取り上げています。 近年大きな地震が続いていることもあり、今後いつ震災が起きてもおかしくないため、下記のチェックリストを活用して、この機会にBCP策定を検討されてみてはいかがでしょうか。

BCP取り組み状況チェック(中小企業庁)

④平時の今こそ取り組んでおくべきこととは

震災が発生した場合に、事業を継続させるための原動力はやはり従業員の方々です。従業員の方々の安否を早急に確認し、体制を立て直して事業復旧に向け動き出すことで、立て直しまでの時間が早まります。ここでは、従業員に着目してBCP策定につながる対策をご紹介します。

1.安否確認システムの導入

震災により状況が一変した際に、最優先で必要になるのが、従業員の安否確認です。
インターネットが普及した現代において、連絡手段はメールやSMSその他ネットワークサービスがあり、わざわざシステムを導入する必要がないのでは、と思うかもしれません。
震災などの緊急事態下で多くの情報と混ざってしまうメール等は情報把握に時間がかかってしまいます。安否確認システム導入により情報が埋もれずに従業員の安否確認を行うことができるようになります。

また、安否確認システムの中には、ファイルや写真などをアップロードできる機能を備えているものがあります。
このような機能を活用して

  • (1)震災発生前の事前対策の一つとして、震災発生直後に役立つ初動対応マニュアルをアップロードし、閲覧できる状態にしておく
  • (2)震災発生後は、従業員から被災状況がわかるように写真を撮影・アップロードしてもらうことで被害状況の共有をする

など、安否確認にとどまらない利用の仕方ができます。
この他にも企業ごとに安否確認システムを有効活用できる方法を検討してみるとよいでしょう。

2.業務リスクの分散化

業種や業態により実現可能であれば、リモートワークの体制づくりを選択肢の一つに入れてもよいでしょう。 会社が被害を受け出社が困難となった場合、リモートワークで仕事ができる環境があることで労働力の有効活用およびすみやかな事業再開を図ることができます。

非常時以外でも、悪天候で出社が難しい時に仕事ができるようになるため、勤務に幅が出ます。リモートワークをすでに取り入れている企業では出社回帰が進んでいますが、災害を想定して安易に廃止せず、制度として残すことも一つの手です。

③心のケアを考えた対策を打っておく

震災に直面すると普段経験しないような場面に遭遇することで極度のストレスを抱え、就労にも影響が出ることが想定されます。身の安全ばかりが注目されますが、心のケアも考えた対策を打っておく必要があります。

具体的には、

  • ・災害時に相談できる外部カウンセラーと契約
  • ・災害時の心のケアや周囲からの声掛け等を反映させたマニュアルを整備

など対策しておくとよいでしょう。
メンタルヘルスケアは、現代の重要な労務管理の一つのため、日頃の対策の延長で取り組むことができます。参考までに下記の厚生労働省のHPもご確認ください。

働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト

⑤最後に

大規模災害はいつどこで起きてもおかしくありません。必要と感じたときに行動に移すことが大切です。この機会に日頃の安全管理方法を始め、震災や大規模災害などを想定し、企業内で取り組みを始めてはいかがでしょうか。

セコムトラストシステムズからのご紹介

セコムトラストシステムズでは、出退勤時間の管理を行う勤怠管理サービス以外に、災害時の連絡体制を得るためのツールとして安否確認サービスを提供しています。 震災等発生時における、勤怠管理サービスと安否確認サービスの利用イメージについてご紹介します。

例えば、業務時間帯に震災等が発生した場合は、安否確認サービスでの確認に加えて、「セコムあんしん勤怠管理サービス KING OF TIME Edition」の日別データ(出退勤打刻情報やシフト情報)を確認することで、今誰がどこで業務をおこなっているか、もしくは通勤中なのか休暇中なのかなどをいち早く把握することが可能です。

工場などの広い施設において多くの従業員が勤務される場合などは、出勤打刻情報を用いて、点呼の代わりに活用いただく事例もあります。

一方で、休日や夜間などの業務時間外に震災等が発生した場合は、「セコム安否確認サービス スマート」にて、メールや報告用アプリ、LINEなどを利用して従業員ご自身の状況を回答してもらうことで、自社の被災状況を把握することが可能です。 いざというときに、社員の安否状況確認を行うための手段を、あらかじめ決めておくことが重要です。この機会に一度社内のBCP対策について見直しいただくことをおすすめいたします。
■「セコム安否確認サービス スマート」の概要

最後に、BCP対策に関連した無料Webセミナーのご案内です。
ご興味をお持ちいただけましたら、ぜひ、ご視聴くださいませ。

初動対応マニュアルの作り方 ポイント解説無料Webセミナー

https://www.secomtrust.net/seminar/webinar/shodou.html

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