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社労士コラム
~労働時間の丸めはNG!?未来を見据えた正しい労務管理を教えます。~

記事作成日:2025 年 3 月 6 日
監修者
社会保険労務士法人ヒューマンリソースマネージメント
特定社会保険労務士 馬場 栄

3,500社を超える企業の就業規則改定を行ってきた実績を持つ。また、豊富な経験と最新の裁判傾向を踏まえた労務相談には定評があり、クラウド勤怠のイロハから給与計算実務までを踏まえたDX支援を得意としている。
https://www.human-rm.or.jp

目次

①労働時間の丸めに潜む落とし穴

近年、Excelやタイムカードによる管理から、勤怠管理システムを導入するケースが増えています。
勤怠管理システムは労働時間の集計が容易で、給与計算へスムーズに連携ができます。会社ごとに異なる労働時間の集計を実現するために様々な機能を備えています。

その中でも、今回は労働時間の「丸め」機能について取り上げていきます。
この丸め機能は、労働時間の切り捨て、切り上げといった端数処理を行うことができます。

例えば、18時00分定時の会社で18時13分に退勤した場合に、

  • ・13分を切り捨てて18時00分退勤と扱う→切り捨て(切り捨て丸め)
  • ・15分へ切り上げて18時15分退勤と扱う→切り上げ(切り上げ丸め)
このような設定をシステムで簡単に実現することができます。

端数時間を丸める運用は、

  • ・端数時間の細かい計算をする手間がなくなるため給与計算を簡素化できる
  • ・端数時間を切り捨てた場合、端数時間に関する賃金を支払しなくて済む
ということから多くの会社で取り入れられ、勤怠管理システムでも運用するケースが多く見受けられます。

果たして、労働時間を丸める運用は続けていてもよいのでしょうか。
法律における原則的な考え方や端数時間の処理について争われた例を踏まえて解説していきます。

②知らないでは済まされない労働時間の知識とは

労働時間の丸めについて、法律上の考え方を整理していきます。
まず、前述のうち、切り上げは、法律上問題ありません。
例えば時間外労働の記録で、18時13分退勤記録を18時15分として扱うことは、本来支払うべき時間外手当を多く支払うことになり、労働者有利となるため問題とはなりません。

問題となるのが、切り捨てるケースです。

労働時間に関する法律上の考え方として、働いた時間に関しては賃金を全額払わなければならないという「賃金全額払いの原則」があります。この原則をもとに労働時間は、「1分単位」でカウントする必要があります。
従って、労働時間を意図的に切り捨てることは、賃金全額払いの原則に違反する恐れがあります。

一方で、行政通達において事務処理の簡素化のために下記の取り扱いは認められることとなっています。

  • ”「1か月」における時間外労働、休日労働および深夜業の各々の時間数の合計に1時間未満の端数がある場合に、30分未満の端数を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げること”(昭和63年3月14日付け基発150号)

なお、「1日単位」での労働時間数の端数処理は認められていませんので、この通達に従って処理をする場合には注意が必要です。

また、行政通達はあくまで行政上の解釈として発信されたものであり法的拘束力を与えるものではありません。裁判となった場合にはこの行政解釈が認められないこともありうるということを押さえておきましょう。

それでは、時間外労働ではなく、遅刻や早退の場合はどうでしょうか。
遅刻や早退の場合には、ノーワークノーペイの原則に従い、不就労時間分を控除することは可能となります。しかし、丸め処理により、5分の遅刻を15分、15分の早退を30分として扱うことは控除時間が増えるため時間外労働と同様に丸めを利用しない方がよいでしょう。

以上を踏まえ、勤怠管理システムで集計された労働時間は1分単位で集計し、労働時間を修正しない運用が何より肝要となります。

③切り捨てた数分の労働時間、安易に考えていませんか?

労働時間の丸めにより切り捨てられた時間は、未払い賃金となります。

たとえ1日3分の切り捨てでも1か月10日切り捨てれば30分、20日では1時間分の残業代が切り捨てられるのです。

以下を例にして年間の未払賃金を計算します。

・1日の切り捨て時間:3分
・従業員数:100名
・年間労働日数:240日
・時給(時間外手当):1時間 1,500円

3分×100名×240日÷60分=1,200時間
1,200時間×1,500円=180万円

年間未払賃金=180万円

従業員100名の会社が1日3分切り捨てていれば、年間180万円の未払賃金が発生します。

現行の法律では、未払賃金の時効は3年であるため、仮に労働基準監督署から未払賃金の支払いを指導された場合は、3年分の540万円の支払いが必要になります。

また、労働基準法違反となりますので、悪質な場合には企業名が公表されるケースもあります。公表となると信用低下により事業活動や採用にも大きく影響を及ぼします。

労働時間の切り捨てについては厚生労働省から発信があり、引き続き行政の関心は高いと言えるでしょう。
⇒参考:労働時間を適正に把握し、正しく賃金を支払いましょう(厚生労働省)

実際に労働時間を切り捨てたことが原因で裁判まで発展したケースもあります。

・15分未満の切り捨てが違法とされた裁判例

2019年2月、医療業を営むA社は、診療室への入退室時刻を時計で確認し記録することで労働時間管理を行っていました。A社では、所定労働時間を超えた残業時間について15分未満の時間を切り捨てて給与計算を行っていましたが、医師Bがこの処理は法律上認められないとして未払い賃金を請求しました。

A社は医師の診療行為の裁量権や応召義務を根拠に、15分未満の時間の切り捨ては労働基準法違反ではないと主張しました。

しかし裁判所は、労働基準法では労働時間の端数処理は原則として許されず、1分単位で把握しなければならないとし、端数切り捨て処理によって実労働時間よりも少ない時間での集計は認められないと判断しました。結果として、裁判所はA社に対して未払い残業代の支払いを命じ、A社が敗訴しています。

実際は、裁判に発展する前に会社から未払い賃金を払って清算をするケースもあるかもしれません。
トラブルに発展することで、過去の勤怠データを再計算する、業務改善を検討するなど、金額以外の負担があることも押さえておきましょう。

④労務管理上の新たに取り組むべき課題とは

法律の考え方に沿って、1分単位で集計すると切り捨てしていた頃より時間外労働が多くなるため、何とかしたいと考える会社も多いのではないでしょうか。丸め機能を利用しなくとも、運用の変更によって時間外労働を減らすことができます。

例えば下記のようなケースで考えてみます。

①すでに仕事を終えているにもかかわらず打刻をすぐにしないため余分な時間外労働が集計される

仕事を終えたらすみやかに退勤打刻をするという習慣作りが必要です。日々の声がけを継続的に行うことで少しずつ浸透していくでしょう。
人員の入れ替えや時間の経過とともに形骸化するケースもあるので継続できるかがポイントです。

②純粋に労働していた時間のみ労働時間として扱いたい

仕事をせず同僚と話をしているケースなど、不必要に時間外労働がかさむケースがあります。この場合には、残業申請制を導入するとよいでしょう。時間外労働が発生した場合に残業を申請させ、承認が下りた場合に時間外労働として計上することができます。
しかし、申請しづらい雰囲気があると隠れ残業にもなりえますので、運用にあたっては申請しやすい風土作りが必要です。

上記のように時間外労働を減らす取り組みもありますが、固定残業制の導入を検討してもよいかもしれません。
固定残業制は一定時間までは残業代が変わらないため、早く退勤した方が得、という意識が生まれ、生産性が向上するケースもあります。それ以外にも

  • ・残業代を計算することが少なくなるため、給与計算が簡素化する
  • ・少しでも早く退勤してもらうための声がけや管理、それらにかかる労力が減る
  • ・処遇改善により、採用で他社と差別化が図れるだけでなく、離職率軽減にもつながる

人件費の負担増にはなりますが、人材不足対策も踏まえて検討してみてはいかがでしょうか。

⑤勤怠管理システムならではの課題とは

勤怠管理システムを利用することで、新たな課題が見えてくることがあります。

その代表例が、打刻された時間のうち労働時間として扱うべき時間とそうではない時間の切り分けについてです。
例えば、着替えのため早めに打刻した時間の取り扱いや、仕事ではないものの早めに会社に来た時に打刻をした場合の取り扱いなどがあります。
労働時間として扱うべきか明確な内容であれば問題とならないかもしれませんが、どう扱えばよいか判断に悩むケースも多くあります。

勤怠管理システムを導入する場合には必要に応じて労働法の専門家に相談するなど、トラブルを未然に防ぐためにきちんと整理しておくとよいでしょう。

セコムトラストシステムズからのご紹介

最後に、セコムトラストシステムズから、時間外労働の集計に関する「セコムあんしん勤怠管理サービス KING OF TIME Edition」の機能についてご紹介します。

本編で紹介されている固定残業制(みなし残業制)についてご説明します。
固定残業制を導入すると、生産性の向上が期待できるほか、従業員は安定した収入を得られ、企業側も給与計算の手間を軽減できるというメリットがあります。
セコムトラストシステムズの勤怠管理サービスでは、あらかじめ決められたみなし残業時間を設定することで、その時間を超える時間外労働が発生した場合は、別途集計し、適正に支払うための労働時間を算出することが可能です。

一方で、従業員への説明を適切に行わないと、違法な長時間労働につながるリスクもあります。例えば、固定残業代があることで「この範囲内ならどれだけ残業しても問題ない」と誤解し、不要な長時間労働を強いるケースが生じる可能性があります。

そのため、固定残業制度を検討する際には、従業員への説明を明確に行い、理解を得ることが大切です。

セコムあんしん勤怠管理サービス KING OF TIME Editionでは、毎月の残業時間を年間で確認する機能や、一定時間を超えた労働時間が発生した場合にアラートを通知する機能があります。

このような機能を活用することで、実態に即した運用を心掛けるための重要な材料とすることができます。