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社労士コラム
~「労働時間の正しい計算方法」~
イレギュラーな勤務時間の管理

記事作成日:2024 年 4 月 22 日
監修者
社会保険労務士法人ヒューマンリソースマネージメント
特定社会保険労務士 馬場 栄

3,500社を超える企業の就業規則改定を行ってきた実績を持つ。 また、豊富な経験と最新の裁判傾向を踏まえた労務相談には定評があり、クラウド勤怠のイロハから給与計算実務までを踏まえたDX支援を得意としている。
https://www.human-rm.or.jp

目次

半休取得時や日をまたいだ残業など、労働時間を管理するうえで扱いに迷う勤務はたくさんあります。
今回は、勘違いされがちな労働時間の集計方法について解説します。

①午前半休取得時の残業時間計算方法

通常の始業時刻ではなく、午前半休を取得したことで、午後から出勤した日に残業をする従業員がいた場合、どこから時間外勤務だとカウントすべきでしょうか。

<例> 所定労働時間8:00~17:00の場合(休憩時間12:00~13:00)
出勤13:00~退勤22:00(午前半休8:00~12:00)の労働時間計算

(法律上は8時間超過後の休憩が必要ですが、便宜上の例として休憩の概念は除外しています)

時間外割増が必要な労働時間は、原則、年休使用部分の「働いたとみなした時間」は考慮せず、実際に働いた時間で判断します。
つまり、上の例では所定労働開始時刻の8時を起点に考えるのではなく、実際に出勤した13時を起点に考えます。よって、17時から21時の労働は残業ですが、時間外割増が不要な残業(単価×1.00)となり、時間外割増が必要な残業(単価×1.25)は、実労働時間が法定労働時間(8時間)を超えた21時以降の労働となります。

なお、36協定で規制する残業時間についても、実際に働いた時間が法定労働時間を超えた部分だけを見ますので、上記例では21時から22時の1時間だけが規制時間の対象となります。

もちろん、これは法律の定める最低限度の考え方であるため 「所定労働時間を超えた17時以降の労働をすべて時間外割増の対象とする」といった労働者に有利な扱いについては問題ありません。

②日をまたいだ労働時間の計算方法

繁忙期などで午前0時以降も残業し労働が翌日におよんだ場合、出勤打刻の属する日の一つの勤務として扱います。

<例1>所定労働日間で日をまたぐ勤務の場合
<例2>所定労働日から法定休日をまたぐ勤務の場合

午前0時をまたいだ日が法定休日の場合は、0時以降は休日割増手当の支払いが必要となり、0時~5時の部分は、深夜割増手当と休日割増手当の両方の支払いが必要です。

③移動時間の取り扱いについて

移動時間が労働時間に該当するかは、従業員がその移動時間に会社の指揮命令下にある状態か否かという視点での判断が必要です。以下で具体的にご紹介します。

■通勤時間

通勤時間は原則として労働時間として扱う必要はありません。会社に向かう道中や、会社から帰宅するまでの道中は、基本的に会社が指揮している状態だとはいえないためです。

■出張のための移動

自宅から直接出張先へ向かう移動(またはその逆)は、通常の通勤時間と同じ扱いとなるため、労働時間と取り扱う必要はありません。仮に休日明けの出張のために現地に前乗りするといった場合も同様です。 ただし、業務上必要な準備のために、出張前に会社に立ち寄る場合や、物品運搬を兼ねた出張で、移動中も物品を管理する場合などは、労働時間に該当する場合があるため注意が必要です。 休日移動を伴う出張が多い場合は、その移動時間を労働時間として給与を加算するのではなく、別途出張手当や日当を支給する会社も多く見られます。

■客先間の移動

客先と会社との移動時間、または客先から客先への移動時間については、通勤時間などの移動時間とは少し考え方が異なります。
始業時間を過ぎて労働時間が開始されてからの、所定労働時間中の移動時間については労働時間として扱われます。ただし、その移動時間内で従業員の自由行動を保障するというような特別なケースについては、この限りではありません。

④出社時間を早める従業員への対応

満員電車を避けるためなど、自主的に早めに出社し始業時刻の1時間前に打刻している従業員がいたとしましょう。この場合も労働時間としてみなす必要があるのでしょうか。

こういった場合は、従業員に「始業前に出社する理由」を確認し、見極めることが大切です。確認した結果、それが労働時間とみなされる性質のものでなければ、もちろん労働時間として扱う必要はありません。
以下のような例は、一般的に労働時間とは認められません。

  • ・始業前のコーヒータイムや雑談の時間
  • ・化粧や整髪など、業務上とくに必要としない(本来外出前にすべき)準備のための時間

ただし、以下のようなケースでは、労働時間として認められる場合もあります。

  • ・業務量過多により早めに出社しなければ業務が追い付かない場合
  • ・社内での準備が必須であることがマニュアルや就業規則に明記されている場合

早めに出社している従業員がいる場合は、先ずはきちんと理由を確認しましょう。

業務性が無いのに早く出社している場合は、早く来なくてもいいということをきちんと伝えたり、渋滞に巻き込まれたくない等の個人的な理由で早出したいのであれば、業務を開始する時点で打刻をするよう伝えることも一案です。
また、業務が溜まっていてそのために早出している場合は、管理者がフォローし、早出しなくても済むような状態に改善することが必要な対応となります。

より柔軟な制度として、出勤時刻より前後1時間以内の出勤を認めるなど、時差出勤の導入も検討してみてもいいでしょう。

⑤残業前の休憩

定時後に残業する場合の休憩については、法律上とくに定められていません。6時間を超え、8時間以下の場合は少なくとも45分、8時間超の場合は少なくとも1時間という休憩時間が守られていれば、残業する場合に追加でさらに15分、などの休憩を与えることに問題はありません。

しかし、例えば就業規則に残業の場合は別途15分休憩を与えると記載し、その前提で給与計算しているにもかかわらず、休憩を取れないことが常態化しているようなケースは問題です。この15分が未払い残業代となります。1日にすればたった15分としても、未払い賃金の時効は3年(令和5年10月現在)です。3年分の未払い残業代は、会社にとって大きなリスクとなりますので、15分の休憩取得ルールを徹底させることが重要です。

ただし「休憩を取るより終業時刻を早めたい」など労働者の意向が多ければ、残業前の休憩取得のルールを徹底するより、実際に働いた部分を残業代としてきっちり支払うことを検討すべきでしょう。

⑥悪天候で社員を早退させた場合の賃金

大型台風や大雪が予想されるときなど、交通機関の混乱が生じることを見越して、社員を定時より早めに帰らせることがあります。 このように悪天候が原因で早退させた場合、その早退部分は給与から控除するのでしょうか。

労働基準法第24条には、ノーワーク・ノーペイの原則が定められています。
そのため、労働の提供が無かった部分について、賃金を支払う義務は発生しません。
よって早退部分の賃金を控除することに法的な問題はありませんが、会社判断で早退させた場合の賃金は、労働基準法第26条に定められている休業補償の対象となるかがポイントになります。

休業補償の対象となるのは、「使用者の責に帰すべき事由」による休業となっており、台風が直撃することが明確な場合などは「使用者の責に帰すべき事由」には該当しません。よって休業補償を支払う必要はないということになりますが、実務上は必ずしも明確な中で判断できるとも限りません。

なお、会社には従業員の心身の健康を守る「安全配慮義務」が課されているということもポイントになります。
悪天候の際に従業員を早退させることは、この安全配慮義務に関わる行為と考えられます。よって会社の義務履行という観点から、今回のようなケースでは早退部分の賃金を控除すること無く、賃金を支払うほうが望ましいと言えるでしょう。

このように、半休取得時や日をまたいだ残業、休日労働、直行直帰といったイレギュラーな勤務であっても、労働時間は正しく集計することが必須となります。

労働時間は正確に計算する必要があるということを改めて認識し、リスクのない労働時間管理を行いましょう。

セコムトラストシステムズからのご紹介

最後に、セコムトラストシステムズから、残業時間の把握に関する「セコムあんしん勤怠管理サービス KING OF TIME Edition」の設定についてご紹介します。

<残業開始時間の設定について>

セコムあんしん勤怠管理サービス KING OF TIME Editionでは、日の実働労働時間が8時間を超えた分を、時間外割増として残業時間に計上する設定ができます。


<出勤予定前の労働時間の取り扱いについて>

通勤時の混雑を避けるため、自主的に早めに出勤される従業員が多く、労働時間管理に苦労されている場合は、出勤予定時刻よりも前の労働時間を「勤怠時間として扱わない」設定ができます。
実際に勤務を行った場合は、残業申請を行うことで、労働時間として計上も可能です。