社労士コラム
~「労働時間の端数処理」~
賃金計算で迷いやすい端数の扱いを解説!

- 監修者
- 社会保険労務士事務所 労務サポート所長
社会保険労務士 後藤 昌雄
企業の人事労務に関する支援に15年以上の実績があり、実務経験に基づいた労務管理のノウハウや働く社員のルール作り、行政調査の対応等を提供。
目次
※労働時間数をA、時間単価をB、賃金をCとしてご説明します。
今回は、労働時間や賃金の端数処理について、説明します。
分かりやすくするために、C 賃金を、A 労働時間数と B 時間単価に分解して説明します。
A-1 1日の労働時間の端数処理
毎日の労働時間は、原則として、1分単位で把握しなければなりません。
1日単位で労働時間の端数を切り捨てて、労働時間数に不足が生じるのは不可であり、1日単位で労働時間を端数処理する場合は、端数をすべて切り上げなければなりません。
例えば、毎日の残業時間で、30分未満を切り捨てるのは、労働基準法(以下、労基法)違反です。30分以上1時間未満を1時間に切り上げる場合は認められます。
ただし、賃金計算における1か月の残業の合計時間数については、便宜上、例外的な取り扱いが認められています。
A-2 賃金計算期間における残業の合計時間の端数処理
賃金計算期間における1か月の残業時間(時間外、休日、深夜)の端数処理については、各々の1か月の合計時間数に1時間未満の端数がある場合、下記になります。
残業合計時間の端数 | 30分未満 | 30分以上 1時間未満 |
---|---|---|
端数処理 | 切り捨て | 切り上げて1時間 |
なお、この端数処理は、あくまで1か月間の残業の合計時間に対しての例外規定です。
1日の残業時間において、端数を切り捨てることは違法です。
A-3 遅刻の場合の労働時間の端数処理
遅刻した場合の減給(賃金カット)について
例えば、30分に満たない遅刻の時間を、常に30分単位に切り上げるのは有効でしょうか?
労働基準法の「減給の制裁」として、上記のように取り扱う旨を、就業規則に明記し、労基法第91条の制限内で行うのであれば、違法ではありません。
労基法第91条とは、「減給1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が1賃金支払期における賃金総額の10分の1を超えてはならない。」という規定です。
A-4 有給休暇の時間の端数処理
時間単位で付与できる年次有給休暇の日数は、前年度からの繰り越し分も含めて年5日以内です。
年次有給休暇1日の時間数を定めるにあたり、1日の所定労働時間につき1時間に満たない端数は時間単位に繰り上げとなります。
例えば、1日の所定労働時間が7時間30分の会社の場合、端数である30分を繰り上げ8時間で計算することになります。
したがって、時間単位の取得は5日の範囲内で認められるので、最大で40時間分(8時間×5日)の時間単位の取得が可能です。
次に時間単価の端数について、説明します。
B-1 1時間当たりの賃金額の端数処理(割増賃金の計算の場合)
「1時間当たりの賃金額」とは、時給の場合はその額、日給の場合は1日の所定労働時間数で割った額となります。
月給の場合は、各月の所定労働時間数が異なるため、月給額を「1か月平均の所定労働時間数」で割ります。
「1か月平均の所定労働時間数」の算出方法は、
((365日 - 年間所定休日日数)÷ 12か月)× 1日の所定労働時間数です。
例えば、1日8時間労働で年間休日が120日の場合
((365 - 120)/ 12)× 8 = 163.33333・・・となり、
163時間か163.3時間、又は端数はそのままです。
切り上げて164時間や163.4時間にはできません。
「1か月平均の所定労働時間数」の端数を切り上げると、1時間あたりの賃金が少なくなり、労働者にとって不利になるため、端数はそのままにするか、切り捨てて取り扱うこととされています。
時間外労働等の割増賃金の計算において、月額賃金から「1時間あたりの賃金額」を算出する端数処理は、以下の方法を行う場合、労基法第24条及び第37条違反にはなりません。常に労働者の不利になるものではなく、事務簡便を目的としたものと認められるためです。
「1時間当たりの賃金額」
1円未満の 端数処理 |
50銭未満 | 50銭以上 1円未満 |
---|---|---|
四捨五入 | 切り捨て | 1円に切り上げ |
B-2 残業単価の端数処理
法定労働時間を超える残業の場合、「1時間当たりの賃金額」に割増賃金率(1.25以上)をかけたものが、残業単価になります。1時間当たりの割増賃金額に1円未満の端数が生じた場合も上記と同様の端数処理が認められています。
「1時間当たりの割増賃金額」
1円未満の 端数処理 |
50銭未満 | 50銭以上 1円未満 |
---|---|---|
四捨五入 | 切り捨て | 1円に切り上げ |
次に賃金の端数について、説明します。
C-1 1か月の賃金支払額の端数処理
労基法は、賃金の支払いについて、1)通貨払い、2)直接払い、3)全額払い、4)毎月1回以上払い、5)一定期日払い、という5つの原則を定めています(第24条)。
この規定の趣旨は、労働者にとって賃金は重要な生活のための財源であることから、労働者の生活が脅かされないよう、その手許に賃金が確実に手渡されることを保証するものです。
このように労基法上では、使用者は労働者に対し、賃金全額を定められた期日に支払うことを義務づけられています。
労基法上の端数処理のルールとして、賃金支払い額を100円単位で切り捨てる等、賃金額に不足が生じる方法は不可です。
しかし、端数処理を一切認めないことは、いたずらに事務負担を大きくするのも事実です。
そこで、下記の方法による端数処理については、賃金支払いの便宜上の取扱いと認められ、労基法第24条違反にはならないとされています(昭63・3・14基発150号)。
1か月の 賃金支払額 |
100円未満 | 1,000円未満 |
---|---|---|
端数処理 | 四捨五入 | 翌月の賃金支払に繰越 |
例えば、1か月の賃金支払額に100円未満の端数が生じた場合
50円未満の端数を切り捨て
50円以上の端数を100円に切り上げ(四捨五入)となります。
1か月の賃金支払額に1,000円未満の端数が生じた場合は
翌月の賃金支払日に繰り越して支払うとなります。
ただし、このような賃金の支払方法を行うのであれば、その旨を就業規則等に定めておく必要があります。
C-2 割増賃金の計算における端数処理
1か月間の時間外労働、休日労働、深夜労働について、それぞれの割増賃金を計算する場合に、月額賃金から算出した「1時間あたりの賃金額」に割増率を乗じた際の端数処理にも、以下の方法が可能です。
1円未満の 端数処理 |
50銭未満 | 50銭以上 1円未満 |
---|---|---|
四捨五入 | 切り捨て | 1円に切り上げ |
なお、賃金計算の端数処理については、就業規則又は賃金規程で定める必要があります。
C-3 賃金計算時の欠勤控除の端数処理
労基法上は欠勤の賃金カット額の計算方法については特に規定はありません。
一般的にとられている方法は、1日の賃金額を計算して、欠勤1日についてその額をカットする方法です。
1日の賃金額の計算は、月給額を1年間における1か月平均の所定労働日数で割る方法などがあります。
欠勤控除の端数処理は円未満切り捨てになります。欠勤控除で切り上げると、労働者不利のため不可になります。
まとめ
このように、残業については、A 残業時間の合計時間 B 時間単価 C 割増賃金の、どの部分についても、端数処理の例外が認められています。
なお、通常の所定労働時間の賃金については、Cの賃金支払額の部分のみ、端数処理の例外が認められています。
他にも特約がある場合にはこれによりますが、特約がなければ、1円未満の端数は四捨五入されて支払われることになります。(小額通貨の整理及び支払金の端数計算に関する法律 第11条、通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律 第3条)
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- 電車遅延や交通渋滞などの場合に、遅刻の表示をさせない対応は可能ですか?
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はい、可能です。
「出勤予定時刻」と実際の、「出勤打刻時刻」の差が「遅刻時間」としてシステム画面上に表示されます。
出勤打刻時間を管理者が修正する、もしくは従業員から出勤打刻時間を申請して管理者が承認することができるので、電車遅延や交通渋滞などやむを得ない場合には、企業の規定に合わせて遅刻として取り扱わないように変更ができます。 - 休憩時間の取得方法には何がありますか?
-
システムで管理できる休憩には以下の3種類があります。併用も可能です。
1.打刻休憩 従業員がタイムレコーダーで記録します。 2.スケジュール休憩 スケジュールパターン設定時に休憩予定を登録しておきます。 3.自動休憩 日の労働時間が基準時間を上回るときに休憩を自動取得します。