社労士コラム
~最低賃金の大幅な上昇でパート・アルバイト対策が急務となったその理由とは~
- 監修者
- 社会保険労務士法人ヒューマンリソースマネージメント
代表社員 特定社会保険労務士 馬場 栄
3,500社を超える企業の就業規則改定を行ってきた実績を持つ。
また、豊富な経験と最新の裁判傾向を踏まえた労務相談には定評があり、クラウド勤怠のイロハから給与計算実務までを踏まえたDX支援を得意としている。
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目次
①令和6年度の最低賃金改定の目安は
令和6年7月25日に開催された中央最低賃金審議会にて、令和6年度の地域別最低賃金額改定の目安が提示されました。
各都道府県の引き上げ額の目安は、各都道府県に適用される目安のランク(令和6年度はA~Cランク)ごとに分かれて提示されます。例年はランクごとに目安額が分かれていましたが、令和6年度はどのランクにおいても目安額が50円と提示されました。この額は昭和53年度に目安制度が始まって以来の最高額となります。また引き上げ率は5.0%(令和5年度は4.5%)となります。
この目安をもとに各都道府県で行われる地方最低賃金審議会で地域ごとの実態を踏まえて、都道府県労働局長が10月以降に適用される地域別最低賃金額を決定することになります。
⇒<参考>厚生労働省:令和6年度地域別最低賃金額改定の目安について
②最低賃金の近年の動向
令和5年度は、全国加重平均で43円の引き上げで過去最高の引き上げ額となりました。その結果、最低賃金額は全国加重平均1,004円となり、平成29年3月28日働き方改革実現会議決定で掲げていた「全国加重平均1,000円」は達成されました。
その後、近年の物価高による影響等を鑑み、最低賃金はさらに引き上げを行う必要があるとして、新たに「2030年代半ばまでに全国加重平均が1,500円となることを目指す」としています。
今後も最低賃金が上昇していく可能性は十分に考えられますので、会社側は、労働条件や労働環境の改善が求められることになるでしょう。
⇒<参考>厚生労働省:令和5年度の最低賃金について
③そもそも最低賃金とは
最低賃金とは、最低賃金法に基づき国が定める賃金の最低額です。会社は最低賃金以上の賃金を支払う義務があります。
そして最低賃金は、正社員だけでなく、パート・アルバイト、派遣社員、嘱託社員、外国人実習生など、雇用形態に関係なく、すべての労働者に適用されます。
最低賃金を下回った場合は、最低賃金法違反により50万円以下の罰金が科される可能性があります。また、労働者が最低賃金を下回る賃金で合意した場合でも、その合意は法的に無効となり、最低賃金額での合意があったものとみなされます。
従って、会社は毎年改定される最低賃金を把握し、賃金改定を適切に行わなければなりません。
そのためには、最低賃金の計算方法を適切に把握し、最低賃金を下回っていないか都度確認する必要があります。計算方法は下記リンク先をご確認ください。
⇒<参考>厚生労働省:最低賃金のチェック方法は?
④最低賃金の対象となる賃金とは?
最低賃金の対象となる賃金は、「毎月支払われる基本的な賃金」です。実際に支払われている賃金から以下の賃金を除いたものが最低賃金の対象になります。
精皆勤手当は、割増賃金を計算する際には、計算の基礎に含める必要がありますので、注意が必要です。また、通勤手当・家族手当は、支払いの仕方で割増賃金の計算に含めるか否かが変わる手当になりますので、きちんと区別しておきましょう。
⑤最低賃金を下回るケース
最低賃金を定期的に確認していない場合、従業員の給与が実は最低賃金を下回っているという場合もあります。次に、具体的なケースごとに最低賃金の確認方法を紹介します。
◆最低賃金対象外の賃金を含んで計算をしている
まず、自社の給与が最低賃金の対象となる賃金なのか確認しましょう。改めて確認をすると、対象とならない賃金が含まれているケースがあります。- 固定残業代を取り入れているケース
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固定残業代を運用する際に、「基本給:月給25万円(固定残業代20時間分を含む)」と基本給に含めているケースがあります。この固定残業代はあくまで「残業代」であるため、最低賃金の対象となりません。
また、「固定残業代20時間分を含む」といった給与の決め方をしている場合、従業員にとっては基本給と固定残業代の区分が簡単に判断できず、トラブルとなることが多いです。求人を出す際や労働条件を明示する際には、時間外労働何時間分に相当するかだけでなく、金額がいくらであるのかも明記すべきでしょう。 - 住宅手当を支給しているケース
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住宅手当は、最低賃金と割増賃金において計算方法が異なる手当です。似た手当として家族手当と通勤手当がありますが、計算する際に混同しやすい手当となりますので、比較して整理していきます。
まず、割増賃金は、支払方法により計算に含めるかが異なり、この点は各手当ともに共通した考え方となります。 しかし、最低賃金は、住宅手当のみ含めて計算することになり、割増賃金の計算とは異なる取り扱いとなります。
◆給与の設定金額が最低賃金に近い場合(若手社員・契約社員・パート・アルバイトなど)
最低賃金は、年々上昇しています。若手社員・契約社員・パート・アルバイトなど、比較的最低賃金に近い賃金で雇用している従業員は、毎年最低賃金を下回っていないかの確認が必要です。
また、定年後に再雇用した従業員は、年金や高年齢雇用継続基本給付金の給付を加味して賃金を決定している場合があります。毎年の最低賃金の確認は、再雇用の従業員も含めて実施しましょう。
近年、最低賃金の上昇額が大きくなっています。この傾向は加重平均1,500円を目指すことから今後も続くと思われます。毎年の昇給額と比べて最低賃金上昇額の方が上回り、その結果2年目の社員より1年目の社員の給与が上回るといった逆転現象が生じる可能性もあります。
入社時の給与水準の下限が最低賃金ギリギリの場合、この逆転現象により給与額調整をしなければならなくなりますので、その場合は給与テーブルの見直しを検討することも視野に入れた方がよいでしょう。
◆最低賃金が上がる前に給与改定や契約更新を行う場合
最低賃金は、毎年10月頃に改定されます。そのため、給与改定や契約更新が、4月など最低賃金が上がる前に行っている会社では、その時点では最低賃金を上回っているものの、10月に改定されると下回ってしまう可能性があります。
このような事態に備え、会社では以下の対策が考えられます。
- 給与改定や契約更新時期を10月に変更する
- 最低賃金上昇を見込んで給与改定を行っておく
- 4月の改定に加えて10月にも改定を行う
手間やコストを考えると、可能であれば「1.給与改定や契約更新時期を10月に変更する」が良いでしょう。
求人を出したタイミングでは最低賃金を上回っていたものの、実際に入社したのが改定後の10月以降となった場合、最低賃金を下回る可能性もあります。10月に給与改定をすることでこのようなケースにも対応できるようになります。
⑥事業所が都道府県を跨いで点在している場合の最低賃金の考え方は?
事業所が複数あり、都道府県を跨いで点在している場合の最低賃金は、事業所が属する地域の最低賃金が適用されます。つまり、同じ会社内でも適用される最低賃金が異なるということです。
全社的に最低賃金の基準を揃えて計算している場合、最低賃金が高い地域にある本社に合わせるといった形であれば問題ありませんが、本社よりも支社の最低賃金が高いケースの場合(例えば、福岡本社に合わせ東京支社も揃えるなど)、最低賃金を下回る可能性があるため注意が必要です。
なお、都道府県を跨ぐ複数事業所がある場合の対策として、以下の2つの方法が考えられます。
- 最低賃金の高い方に合わせ、全従業員の基本給を一律上げる
- 地域ごとに最低賃金を上回るように、「地域手当」を支給する
1つ目が、高い最低賃金に合わせ、全従業員の基本給を一律上げるという方法です。この方法はシンプルですが、大幅なコスト増となる可能性があります。2つ目が、基本給はそのままで、地域ごとに最低賃金を上回るよう「地域手当」を支給する方法です。
例えば、支社が東京にあるような場合、給与規程に東京支社勤務の従業員に対して最低賃金や物価等を考慮し、地域手当を支給すると定める方法です。全社的に一律に基本給を上げるよりコストを抑えることができるでしょう。
⑦最低賃金の上昇によるパート・アルバイトの対応
パート・アルバイトで働く従業員の中には、扶養から外れないよう労働時間を制限して働いている方もいるでしょう。しかし、最低賃金が上昇すれば、同じ労働時間でも年収が増加し、扶養から外れる可能性があります。
その影響から扶養内に収まるよう就業制限をすることで、さらに人手不足が加速することが想定されます。
今後も最低賃金は上昇していくと考えられますので、今の段階から人手不足を少しでも防いでいくための取り組みが必要となるでしょう。
具体的には、下記のような対策が考えられます。
1.社会保険のメリットなどを伝え、扶養から外れて働く従業員を募る。
扶養から外れることで働く時間が増えますので人手不足解消に一役立てることができます。社会保険のメリットだけでなく、雇用条件を優遇させたりするとより効果的になります。
扶養から外れる方については年収の壁・支援強化パッケージなどを活用し手取りを減らさない取り組みを合わせて行うことを検討してもよいでしょう。
<参考>厚労省:年収の壁・支援強化パッケージ
2.従業員と個別に話をし、毎年年末に就業制限することがないよう年始より計画的に働いてもらうことを検討する。
就業制限をするケースで多く見られるのが、年始から年中にかけて多く働くことで年末にかけて就業制限をするケースです。このようなことを未然に防ぐために働く時間、日数を月ごとに算出し、従業員へ提示するとよいでしょう。
3.業務効率化や自動化できるツールの導入を検討する。
人でないとできない仕事、人でなくてもできる仕事を分けていき、効率化ツール・システム等で代用していく方法です。初期費用やシステムに慣れるまで時間がかかることが懸念されますが、人が行うと人件費や代替要員、教育の費用がかかります。将来的には少子高齢化の影響も大きくなりますので、業務の棚卸とともに検討していくとよいでしょう。
4.大幅な時給増加、無期転換や正社員登用により人材定着を図る。
代わりはいくらでもいるという考え方や人件費抑制のために最低賃金ギリギリで働いてもらう場合、従業員の出入りは多くなるでしょう。採用には費用がかかるだけでなく、採用した人材の教育が都度発生します。このことを考えると、辞めさせないための取り組みとして待遇や働き方の改善により人材を定着させることも検討するとよいでしょう。
<参考>厚生労働省:有期契約労働者の無期転換ポータルサイト
セコムトラストシステムズからのご紹介
最後に、セコムトラストシステムズから、正確な労働時間の記録を行ううえで便利な「セコムあんしん勤怠管理サービス KING OF TIME Edition」の機能についてご紹介します。
《アラート機能について》
「セコムあんしん勤怠管理サービス KING OF TIME Edition」では、事前に設定した基準時間に労働時間が達した場合、従業員本人や上長(管理者)にメール通知等でアラートを出すことが可能です。この機能をうまく活用することにより、法令違反を未然に防ぐことはもちろん、月中に従業員ごとに労働時間の偏りがないかなど確認いただくため情報としても活用いただけます。
《人件費概算出力機能について》
人件費概算出力機能を利用することで、労働時間に基づいた人件費の概算を計算することが可能です。あらかじめ、月給・日給・時給単価を登録しておくことにより(※1)、勤務実績に基づいた人件費の概算を把握いただけます(※2)。
例えば、本社以外の店舗や現場の管理者が、速報値として人件費を把握したい等のニーズにご活用いただいています。