社労士コラム
~「年次有給休暇のルール」~
年次有給休暇の取り扱いで、
よくある疑問点を解説!
- 監修者
- 社会保険労務士事務所 労務サポート所長
社会保険労務士 後藤 昌雄
企業の人事労務に関する支援に15年以上の実績があり、実務経験に基づいた労務管理のノウハウや働く社員のルール作り、行政調査の対応等を提供。
目次
年次有給休暇の取得率については、令和3年に58.3%と令和2年より1.7%上昇し、過去最高となりましたが、国の目標である70%とは大きな差があります。
また、労働基準法(以下、労基法)の改正により、平成31年4月から、全ての企業において年10日以上の年次有給休暇が与えられる労働者に対し、年5日の年次有給休暇の取得が求められています。
①年次有給休暇の取得方法
年次有給休暇の取得方法には次の3種類があります。
貴社における年次有給休暇の取得状況に合わせて、3種類の中から選びましょう。
- 労働者の時季指定権による付与(労基法39条5項)
-
年次有給休暇の取得状況が国の目標である7割を超える場合は、引き続き取得促進を進め、長期休暇の促進に努めましょう。
- 労使協定による計画的付与(労基法39条6項)
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年次有給休暇の取得率が低い場合は、計画的な付与を検討しましょう。
- 労働者の意見を聴いたうえでの使用者の時季指定による付与(労基法39条7項)
-
年次有給休暇の取得率は平均的にあるが、一部の労働者が取得してくれない場合には使用者による時季指定を検討しましょう。
②労働時間が日により異なるパートタイマーの年次有給休暇
日により所定労働時間が異なっている、パートタイマーの年次有給休暇はどのように計算すればよいですか?という質問を多くいただきます。
まず年次有給休暇に対する賃金の支払について整理しましょう。
年次有給休暇を取得した場合に支払うべき賃金については、労基法では以下のように定められています。
- 所定労働時間労働した場合の通常の賃金
- 平均賃金
- 健康保険法の標準報酬日額に相当する額(例外)
年次有給休暇に対する賃金の支払いについては、企業の就業規則等にどのように定められているかによります。
一般的には、給与計算の簡便さから(1)の「通常の賃金」を支払う計算方法が使われています。
この場合には、それぞれの曜日における契約時間分の賃金を支払うことになります。
しかし、日により所定労働時間が異なる場合は、年次有給休暇を取得する日により「通常の賃金」が異なりますので、(2)平均賃金、(3)標準報酬日額に相当する額により計算することが望ましいと思われます。
平均賃金は、算定すべき事由が発生した日(有休取得日)以前3か月に支払った賃金から算出します。賃金締切日がある場合は、直前の賃金締切日以前3か月を起算します。
また平均賃金を計算する元となる賃金には、通勤交通費、住宅手当等も含まれます。
原則的な平均賃金の計算方法は、
<以前3か月に支払った賃金総額÷その期間の総暦日数>です。
しかし、週の労働日数が3日など、勤務日数が少ない場合は原則の計算方法では平均賃金が低くなってしまう場合があります。
そこで、時給、日給や出来高払い等の場合は、
<以前3か月に支払った賃金総額÷実労働日数×60%>で計算し、原則的な計算方法で算出した平均賃金と比べて高い方を平均賃金とします。
この方法によれば、年次有給休暇を取得する曜日の影響を受けないことがメリットです。
しかし、給与計算の締切日ごとに平均賃金を計算しなければなりませんので、給与計算の事務処理が煩雑になることがデメリットとなります。
③時間単位の年次有給休暇
通院や子供の学校行事、官公署への届け出など、多様なニーズに柔軟に対応できるよう、年次有給休暇のうち5日分を時間単位で取得できるようになっています。(労基法39条4項)
時間単位で年次有給休暇を取得する場合には、労使協定を締結し、次の事項についての取り決めが必要です。
- 時間単位で年次有給休暇を付与する対象労働者の範囲
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事業の正常な運営等の調整のためであれば、一部の社員を対象外とすることができます。
- 時間単位の年次有給休暇を取得する日数
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1年で最大5日までとなり、前年度からの繰り越しがある場合には繰り越し分も含めて5日までとなります。
- 時間単位の年次有給休暇1日分の労働時間数
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1日分の年次有給休暇が何時間分の時間単位の年次有給休暇に相当するかを定めます。1時間に満たない端数がある場合は時間単位に切り上げます。
- 1時間以外の時間を単位とする場合の時間数
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2時間単位、4時間単位など、1日の所定労働時間数を超えない整数の時間単位で定めます。
時間単位での年次有給休暇の付与についても、企業側の時季変更権は認められていますが、もともと1日単位の年次有給休暇を時間単位に振り替えたり、時間単位の年次有給休暇を1日単位に振り替えたりすることはできません。
また時間単位の年次有給休暇1時間分の賃金は、その日の所定労働時間数で割った額になります。
職場の現状を勘案して、1時間単位の年次有給休暇を与えるかどうか検討しましょう。
④時間単位の年次有給休暇の残日数の管理方法
法律上、年次有給休暇の残日数管理は日数管理が原則ですので、時間単位の年次有給休暇の残日数の管理は、実務上「日数+時間数」で管理する方法をとる必要があります。
時間単位の年次有給休暇の枠を「時間数」で管理するのは、望ましくありません。
所定労働時間8時間として事例をあげます。
<年次有給休暇の残日数20日(うち時間単位5日分)の社員>
- 3時間取得 → 残余は「19日と5時間」
- 半日の年次有給休暇を取得 → 残余は「18.5日と5時間」
取得 | 取得単位 | 残日数・時間数 | うち時間単位年休 |
---|---|---|---|
① | 3時間 | 19.0日 5時間 |
4日 5時間 |
② | 0.5日 時間 |
18.5日 5時間 |
4日 5時間 |
半日の年次有給休暇を併用する場合、半日の年次有給休暇は、あくまでも労働日単位の年次有給休暇の特例であることから、「0.5労働日」単位で管理すべきであり、時間換算できません。
なお、半日の年次有給休暇を取得した社員が、次に時間単位の年次有給休暇を取得したときは、管理に注意が必要です。
<年次有給休暇の残日数19日(うち時間単位5日分)の社員>
- 半日の年次有給休暇を取得 → 残余は「18.5日」
- 2時間の時間単位の年次有給休暇を取得 → 残余は「17.5日と6時間」
(18.5日のうち1日分を8時間として換算し、そこから2時間を控除する)
取得 | 取得単位 | 残日数・時間数 | うち時間単位年休 |
---|---|---|---|
① | 0.5日 時間 |
18.5日 0時間 |
5日 0時間 |
② | 2時間 | 17.5日 6時間 |
4日 6時間 |
⑤年次有給休暇の買上げ
年次有給休暇を買い上げることは、労基法の定めにより与えられた年次有給休暇の権利を、金銭を支払うことによって消滅させることを意味します。
年次有給休暇の趣旨は、労働者の心身の疲労を回復させ、労働者の福祉向上を図ることとされています。
その為、年次有給休暇の買い取りは、原則禁止されていますが、以下に該当する日数については、例外的に買い取りを行うことが認められています。
- 法定の年次有給休暇を超えた日数
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労基法の定める付与日数を上回る年次有給休暇については、就業規則、労働協約、労働契約等の定めにより付与したものですので、その日数については、就業規則等で、買い上げる旨の規定を設けても、違法とはなりません。
- 年次有給休暇の時効により消滅した日数
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労働者が年次有給休暇を請求しなかった場合、2年でその権利は消滅します。(ただし年次有給休暇を取得した際の賃金請求権および付加金については、当分の間、消滅時効が3年に延長されています)
したがって、時効で消滅した年次有給休暇を恩恵的に買い上げることは違反にはなりません。
ただし、あらかじめ「買い上げる」ことを就業規則等に定めることは、禁止されていますので注意してください。 - 退職・解雇時に未消化となった年次有給休暇の日数
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退職や解雇によって退職する者の年次有給休暇が、退職日に未取得のまま残っている場合には、その残りの日数を買い上げても必ずしも違法とはなりません。
年次有給休暇は、本来労働すべき日に労働義務を免除するものですから、退職後にはその権利を行使する余地がなくなるからです。ただし、買い取りが年次有給休暇の取得の抑制に繋がる場合は、法律の趣旨に反する行為として望ましくないと考えられていますので、原則は在職中に年次有給休暇を取得するように推奨することが必要です。
セコムトラストシステムズからのご紹介
最後に、セコムトラストシステムズから、年次有給休暇の管理について「セコムあんしん勤怠管理サービス KING OF TIME Edition」の便利な機能をご紹介します。
- 有給休暇付与機能
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勤務日数や勤続年数に合わせて、有休付与日数を自動計算します。有休付与日を迎えた従業員がいる場合は、管理者の画面に、必要な操作を促すアラートが表示されます。付与日数算出作業の削減や、更新作業漏れを防ぐことができます。
- 有休付与の設定を従業員ごとに変更する
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従業員ごとの雇用区分設定に従って、有給休暇を付与することができます。社員や、パートタイマーなど異なる雇用区分が存在している場合でも、システムを使い分ける必要はありません。
- 時間単位の休暇取得
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「日の契約労働時間」を事前に設定しておくことで、「時間単位休暇」の取得に対応することができます。取得時間単位を定めることも可能です。