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電子契約サービスの
選定のポイント

電子契約サービスの選定のポイント 電子契約サービスの選定のポイント

01電子契約の効力

(1)電子契約は有効か
電子契約システムの選定に先立って、まず、電子契約の効力について説明しておきます。
通常は紙で作成する契約書を電子文書で作成してもほとんどの契約類型では問題ありません。これは、民法522条に「契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面等の作成その他の方法を具備することを要しない」と規定されているため、契約の方式が原則として自由とされている(口頭でも、紙でも、電子でもよい)ことによります。
(2)証拠として使える電子
このように契約書を作らなくても契約は成立しますが、契約の成立や内容に争いが生じた場合に証拠がないと困ります。そのために、契約締結の証拠として契約書を作成します。 証拠として民事訴訟に提出できるという意味では、紙でも電子でも違いはありません。どちらの場合でも、民事訴訟では、その文書の作成者とされる人(作成名義人)の意思に基づいて、その文書が作成されたこと(これを「真正な成立」といいます)を証明する必要があります。
(3)推定効を持つ電子署名とは
真正な成立を証明することは、一般的には簡単ではありません。電子文書については、以下の3つの要件が成立する場合に、真正な成立が推定されます(電子署名法3条)。
  1. ① 電子署名(電子署名法2条1項に該当するもの)が行われていること
  2. ② その電子署名が、作成名義人の意思に基づくものであること
  3. ③ その電子署名が、署名用の鍵を安全に管理すれば他人には偽造できないものであること
この3つの要件を備えた電子署名を使うことが、電子契約において重要なポイントとなります。①の電子署名については、広い範囲の方式が含まれることが政府見解で示されています 。②及び③については、いろいろなレベルのサービスが実現されています。

02電子契約サービスの選定

(1)安全性と利便性のトレードオフを踏まえて選定すること
まず、②については、電子証明書の発行時等の身元確認のレベルが重要です。 身元確認を厳格に行えば、紛争になったときに、利用者として記載されている本人が電子署名を行ったことを示すのは容易です。一方、身元確認が簡易だと、本人が関与を否認したときに、本人性が証明できないこともあり得ます。つまり、身元確認を厳格に行うと、電子契約サービスの利用開始の手間は大きくなりますが、紛争時の証明は容易になります。逆に、身元確認が簡易だと、利用開始の手間は小さく簡単に使い始められますが、紛争時の証明は難しくなる傾向にあります。
このどちらか一方が正しいというものではありません。ハンコの場合に実印、銀行届出印、認印などを使い分けているように、電子署名も、用途に合わせて使い分けていく必要があります。すなわち、実印に相当する信頼性が必要な場合には極めて厳格な身元確認を、重要性がそれほど高くない(ハンコの場合には認印を使うような)用途であれば、より簡易な身元確認によるものを用いることが考えられます。
したがって、契約の種類や相手方に応じて必要なレベルの身元確認を選択できる(いわばチューニングできる)電子契約サービスを選ぶと、多くの用途に使いやすいものと思われます。
(2)契約の重要性に応じた身元確認を行っていること
BtoBの契約にあたっては、訴訟時の本人性の証明が確実なものを選択することが重要です(請求書などは意思表示ではなく事実の通知を行うものですので、このような点は少し緩くなると思われます)。 したがって、契約に用いる電子署名は、身元確認が確実なものであって、訴訟等の紛争時に本人性を示せること、逆に言えば相手方が否認(契約をした覚えがないと主張する等)しても、裁判官に本人性を示せる程度の確実性が欲しいところです。BtoBの契約に用いる電子署名には、本人性の証明が容易にできる程度に、厳格な身元確認を行っているサービスを選ぶのがよいと思われます。特に、従来は実印の押印により行っていた契約類型については、それに相当する厳格な身元確認を経た電子署名を使うべきです。
(3)署名者の権限が管理できること
このように、BtoBの電子契約において身元確認が重要ですが、身元がわかればそれだけでよいというわけではありません。
有効な契約するためには、その契約をするための権限を持っていなければなりません。会社等の法人の場合、代表者(代表取締役など)は、契約等に関する包括的な権限を持っていますが、それ以外の役職員も、その職位等に応じた権限を持っているのが普通です。しかし、代表者以外の役職員について、その権限を確認するのは簡単ではありません。
電子契約サービスには、各役職員の契約権限を、契約類型や金額などに基づいて判断できるようにしているものがあります。これは、会社代表者等から権限が与えられている範囲をあらかじめ登録し、実際の契約締結時に契約の相手方が権限を確認できる仕組みです。こうした仕組みを備えた電子契約サービスを用いれば、代表者以外の者による契約が、安心かつスムースに締結できます。
(4)サービスの固有性を備えていること
次に上記の③について考えます。③の性質を政府見解では「固有性」と呼んでいますが、これは「署名鍵を安全に管理していれば他人が偽造できない」程度に堅固なものを意味します。 特に、リモート署名(署名鍵をサービス側に預けるタイプの電子署名)については、リモート署名サービスの利用時の認証(二要素認証など)と、サービス自体の堅牢性・安全性が重要なポイントになります。
現在のところでは、リモート署名サービスについての認定基準はなく、各サービス事業者が自己の判断で安全性を確保している状況です。こういう状況においては、信頼できる事業者がサービスを提供していることが重要になります。たとえば、電子署名法の認定認証業務(同法4条、8条など)を実施している事業者であれば、安全性確保のためのノウハウを持っていることが期待できます。また、長期にわたって証明書発行業務を継続していることもポイントとなると思われます。さらに、サービスを行う各種サーバが、自社で物理的にも管理していること(自社センターでの運用)やそれらサーバが国内に置かれていることも注視すべきであると考えます。
(5)長期間の保存のサービスを提供していること
少し違った側面から電子契約サービスについて考えてみます。電子証明書には有効期限がありますし、場合によっては期限前に失効することもあります。 電子署名は、署名を行う時点で有効な電子証明書に基づいて行われなければなりません。
電子証明書が有効な期間内に行われた電子署名は、その後、何年たっても(電子証明書の有効期限を過ぎても)有効です。しかし、有効期限後に訴訟が提起された場合には、有効な期間内に行われた電子署名であることを証明する必要が生じる可能性があります。
このため、電子署名が行われた電子契約書について、長期署名という技術を用いて、長期にわたって電子署名の有効性を確認できるようにすることが重要です。これは、電子証明書の有効性確認情報等の電子署名の検証に必要な情報を集めてアーカイブし、タイムスタンプを付して保存する方法です。
電子契約サービスでは、こうした長期署名を行っているものがあります。長期間の保存を考えますと、長期署名をサポートしているサービスを選択することが重要だと思います。

宮内 宏(弁護士)

宮内・水町IT法律事務所

東京大学工学部電子工学科及び同修士課程を卒業後、日本電気株式会社(NEC)にて情報セキュリティ等の研究に従事。東京大学法科大学院を経て弁護士となる。
現在は、電子契約・電子署名を始めとするIT関連の法分野で活動している。

宮内 宏
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